イタリア・IRCCS San Raffaele Roma/San Raffaele UniversityのPiero Barbanti氏らは、片頭痛患者864例を対象に多施設前向き研究を行い、抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体(エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブ)に対する反応性の予測因子を特定したと J Headache Pain(2022; 23: 138)に発表した。高頻度反復性片頭痛(HFEM)患者、慢性片頭痛(CM)患者ごとに判明した予測因子は、患者の自己申告により簡単に評価できるものだという。
抗CGRP抗体を24週以上投与した例を対象に検討
CGRPは頭部の感覚をつかさどる三叉神経系に局在し発現している神経ペプチドである。三叉神経終末から放出されて、血管や周囲の組織に炎症を引き起こし、炎症がさらに三叉神経を興奮させる。疼痛シグナルが中枢である大脳皮質感覚野に伝わり、片頭痛の痛みとして知覚する。片頭痛患者では発作時にCGRPが上昇することが報告されており、CGRPの活性を阻害する抗CGRP抗体は片頭痛発作の発症抑制が期待され、国内外での臨床応用が相次いでいる。
日本では2021年に抗CGRP抗体のガルカネズマブ、フレマネズマブ、抗CGRP受容体抗体のエレヌマブが保険適用となった。いずれも4週間隔で投与する皮下注製剤だ(フレマネズマブは12週間隔の投与も可能)だ。これら3剤の使用により片頭痛の発作頻度や重症度などが軽減し、生活への支障が軽減することが期待されている。ただし、投与患者の3分の1では効果が得られず、薬剤費が高額なことから医療経済学的な懸念が指摘されている。そのため、薬剤の反応率を予測し効果が期待できる患者を同定するバイオマーカーの開発が急務となっている。
今回の前向き研究では、抗CGRP抗体のレスポンダーの予測因子を解明すべく、イタリアの20施設で抗CGRP抗体を24週間以上投与された18歳以上の片頭痛患者864例〔平均年齢47.8歳、女性78.1%、HFEM 208例(24.1%)、CM 656例(75.9%)〕を対象に検討した。
抗CGRP抗体の内訳は、エレヌマブ(4週間隔で1回70mgまたは140mg投与)が639例(74.0%)、ガルカネズマブ(初回240mg投与後、4週間隔で120mg投与)が173例(20.0%)、フレマネズマブ(4週間隔で225mgまたは12週間隔で675mg投与)が52例(6.0%)だった。
HFEM:片側性に自律神経症状を伴う疼痛例で高い有効性
主要評価項目は24週時点での1カ月当たりの平均片頭痛日数のベースラインからの50%以上減少の予測因子、副次評価項目は同75%以上減少、100%減少の予測因子とした。
24週時点での月平均片頭痛日数50%以上、75%以上、100%減少の割合は、1カ月当たり平均片頭痛日数が8~14日のHFEM患者でそれぞれ64.9%、30.8%、1%、CM患者で61.4%、30.2%、2.4%だった。
ロジスティック回帰モデルによる多変量解析の結果、HFEM患者では片側性の頭部自律神経症状を伴う疼痛を有する例では、24週時点での1カ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの50%以上減少〔オッズ比(OR)4.23、95%CI 1.57~11.4、P=0.004〕、75%以上減少(同3.44、1.42~8.31、P=0.006)との間に独立した正の関連が認められた。今回の結果から、HFEM患者では末梢性(三叉神経)感作に関連する症状が、抗CGRP抗体に対する反応性の予測因子であることが示唆された。
CM:アロディニアを伴う片側性疼痛例で効果高く、肥満で低下
CM患者でも24週時点での有効性と関連する因子を検討。その結果、1カ月当たり平均片頭痛日数50%以上の減少と、片側性の頭部自律神経症状(OR 1.49、95%CI 1.05~2.11、P=0.026)、片側性の頭部自律神経症状を伴う片側性疼痛(同1.90、1.15~3.16、P=0.012)、アロディニアを伴う片側性疼痛(同1.71、1.04~2.83、P=0.034)との正の関連が認められた。また1カ月当たりの平均片頭痛日数75%以上の減少と、片側性の頭部自律神経症状を伴う片側性疼痛(同1.78、1.14~2.80、P=0.012)、アロディニアを伴う片側性疼痛(同1.92、1.22~3.06、P=0.005)に独立した正の関連が確認された。以上から、CM患者では中枢性感作に関連する症状も抗CGRP抗体に対する反応性の予測因子であることが示唆された。
一方、1カ月当たりの平均片頭痛日数の50%以上減少と肥満との間には独立した負の関連が認められ(OR 0.21、95%CI 0.07~0.64、P=0.006)、CM患者では肥満が抗CGRP抗体に対する反応性低下の予測因子であることが示唆された。
なお、1カ月当たりの平均片頭痛日数の100%減少に関しては、HFEMおよびCMのいずれも達成者が極めて少ないため予測因子を特定できなかった。
以上の結果を踏まえ、Barbanti氏らは「片頭痛患者の自己申告から簡単に把握できる臨床所見(片頭痛の特徴が末梢性感作を示唆するものか、中枢性感作を示唆するものか)の評価が、抗CGRP抗体への反応性の予測に有用である可能性が示された。より精密な疼痛のプロファイリングを行うことが、片頭痛の発症機序・原因に応じた分子標的薬の治療や個別化治療につながる可能性がある」と結論している。
(太田敦子)