新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種意向を決定する重要な要因の1つとしてワクチン情報に対するリテラシーである「ワクチンリテラシー」があり、リテラシーを高めることで接種率の向上につながることが期待される。国立成育医療研究センター社会医学研究部部長の森崎菜穂氏らは、妊婦および2歳以下の子を持つ母親を対象にSARS-CoV-2ワクチンの接種意向と決定に影響する因子を分析。結果をVaccine(2022; 40: 6849-6856)に報告した。
機能的、相互作用的/批判的なワクチンリテラシーを調査
検討は日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究(The Japan COVID-19 and Society Internet Survey;JACSIS)によるもの。2021年7〜8月(第五波、デルタ株流行期)に全国の妊婦および2歳以下の子を持つ母親1万人を対象にインターネット調査を行い、ワクチン接種の意向およびワクチンリテラシーについて聞いた。
ワクチンリテラシーは、Biasioらが作成したCOVID-19ワクチンリテラシースケール(Ann Ig 2020; 32: 205-222)を改変したものを用いて検証した。スケールは12項目のアンケートから成り、4項目で「機能的(functional)ワクチンリテラシー(ワクチンに関する情報を受け取り理解するスキル)」を、8項目で「相互作用的(interactive)/批判的(critical)ワクチンリテラシー(能動的なコミュニケーションにより情報を取得、理解しようとしたり、受動的に受け取った情報を批判的に吟味し、自らの行動を決定するスキル)」をそれぞれ4段階で評価し、得られたスコアによりリテラシーレベルを高レベル、中レベル、低レベルに分類した。
ワクチンリテラシーの低さはワクチン忌避と関連
7,327人(妊婦1,639人、2歳以下の子を持つ母親5,688人)から回答が得られ、「ワクチンを打ちたくない/様子をみてから接種するかを決めたい」との回答は2歳以下の子を持つ母親の31.9%に対して妊婦では51.1%と高かった。
ワクチンの忌避にはワクチンリテラシーが関連しており、妊婦では相互作用的/批判的ワクチンリテラシーの低さがワクチン忌避と関連していた〔中レベル:リスク比(RR)1.60、95%CI 1.19〜2.17、P=0.002、低レベル:同1.69、1.23〜2.31、P<0.001〕。
2歳以下の子を持つ母親では相互作用的/批判的ワクチンリテラシーの低さ(低レベル:同1.28、1.10〜1.49、P=0.002)と機能的ワクチンリテラシーの低さ(低レベル:同1.37、1.18〜1.60、P<0.001)のいずれもがワクチン忌避と関連していた。
「ワクチンを打ちたくない/様子をみてから接種するかを決めたい」と答えた理由については妊婦、2歳以下の子を持つ母親ともに「副反応への懸念」が最も多かった。妊婦では「胎児への影響が心配」「授乳中の児への影響が心配」と回答した集団で相互作用的/批判的ワクチンリテラシーが低かった。2歳以下の子を持つ母親では「感染予防が期待できない」「重症化予防が期待できない」「ワクチンの成分が信用できない」と回答した集団で機能的ワクチンリテラシーが低かった。
ワクチンリテラシーが高い集団は医療従事者や専門家から、また官公庁や大学・学会などの研究機関のウェブサイトを使って情報収集を行っていることが示された。妊婦は医療従事者から情報を得ている割合が高かった。
森崎氏らは、国立成育医療研究センターのプレスリリースで「妊婦は健診等で定期的に医療機関を受診する機会があり、質の高い情報を平等に得られる機会がある。情報を活用し行動に移すためのコミュニケーションの場を支援することで「相互作用的/批判的ワクチンリテラシー」を高めてワクチン接種率を向上できる可能性がある。一方で、幼児を持つ母親には、分かりやすく質の高い情報を届けるための支援が望まれる。それぞれの集団に対してより効果的な支援をしていくことでワクチン接種率の向上につながることが期待される」と述べている。
(編集部)