超早産児は2歳までに酸分泌抑制薬に曝露すると、10歳時点での神経認知機能や神経発達に有害な影響を及ぼす他、自閉症スペクトラム障害(ASD)およびてんかんのリスクが高まる可能性があることが分かった。米・Wake Forest University School of MedicineのElizabeth T. Jensen氏らが、JAMA Netw Open(2022; 5: e2241943)に報告した。
28週未満で出生した889例を10歳時に評価
近年、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)などの酸分泌抑制薬について、乳幼児への投与を制限する動きが見られるが、早産児には依然として高い頻度で使用されている。しかし、出生時に神経学的発達が未熟な早産児は、酸分泌抑制薬の悪影響をより強く受けるとの指摘もある。
Jensen氏らは今回、超早産児の構造的・機能的神経障害リスクを調査する多施設共同前向き観察出産コホートExtremely Low Gestational Age Newborn(ELGAN)試験のデータを用いて、生後24カ月までのPPIおよびH2RAの使用と10歳時点で評価した神経認知機能、神経発達障害、精神症状との関連を検討する多施設共同縦断コホート研究を実施した。
対象は2002年3月~04年8月に在胎28週未満で出生し、10歳時点で一般認知機能(IQ)、実行機能(EF)、ワーキングメモリーなどの神経認知機能、ASDや注意欠陥・多動性障害(ADHD)、社会的障害、てんかんなどの神経発達障害、抑うつや不安などの精神症状が評価できた889例。平均年齢±標準偏差(SD)は9.97±0.67歳、平均在胎週数±SDは26.1±1.3週で、男児は51.2%だった。生後24カ月までの胃酸分泌抑制薬の使用歴は、診療録と母親へのアンケート結果から判定し、368例(41.4%)が該当した。酸分泌抑制薬の曝露群と非曝露群で、患者背景に大きな差は見られなかった。
酸分泌抑制薬使用はIQ、EF、ワーキングメモリーの低下と関連
IQの評価には学齢期Differential Ability Scales-Ⅱ (DAS-Ⅱ)の言語および非言語的推論スケールを用い、EFの評価にはDAS-ⅡとDevelopmental Neuropsychological Assessment-Ⅱ(NEPSY-Ⅱ)の抑制制御および抑制スイッチのサブテストを用いた。言語性ワーキングメモリーの評価にはDAS-Ⅱ のサブテストであるRecall of Digits BackwardとRecall of Sequential Orderを用いた。認知機能の分類は潜在プロファイル分析(LPA)を用いて、参加者を①標準、②低標準、③中等度障害、④重度障害―の4つのサブグループに分けて分析した。社会的障害は、対人応答性尺度(SRS-2)における対人的相互交流(SCI)および興味の限局と反復行動(RRB)を用いて評価した。
分析の結果、生後24カ月までの酸分泌抑制薬の使用は、10歳時点のフルスケールIQスコア(aβ-0.29、95%CI -0.45~-0.12)、言語性IQスコア(同-0.34、-0.52~-0.15)、非言語性IQスコア(同-0.22、-0.39~-0.05)、EFにおける抑制阻害のスコア(同-0.22、-0.38~-0.05)、ワーキングメモリー(同-0.26、-0.45~-0.08)のそれぞれの低下と関連していた。LPAを用いた認知機能分類では、乳児期に酸分泌抑制薬を使用した児は中等度から重度の神経障害リスクが高かった〔調整相対リスク(aRR) 1.40、95%CI 1.13~1.74〕。
ASD、社会的障害、てんかんのリスクが約2倍上昇
10歳時点のASD(aRR 1.84、95%CI 1.15~2.95)、SCI(aβ1.96、95%CI 0.36~3.56)およびRRB(同1.77、0.18~3.35)に基づく社会的障害も、生後24カ月までの酸分泌抑制薬の使用との有意な関連が認められた。てんかん発作(aRR 2.07、95%CI 1.31~3.35)とも関連したが、ADHD、不安、抑うつとの関連は認められなかった。多重回帰モデルでも同様の結果が得られた。
Jensen氏らは「今回の検討で超早産児において、生後早期の酸分泌抑制薬使用と10歳時点の有害な神経認知機能および神経発達転帰との間に関連が見られた理由は不明だ」としながらも、酸分泌抑制薬による腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が出生児の神経発達に悪影響を与えている可能性を指摘。その上で、「超早産児に酸分泌抑制薬が頻用されている現状に鑑み、今後もさらなる調査が必要だ」と付言している。
(小谷明美)