現在蔓延している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの感染症患者において、肥満症や糖尿病は重症化リスクの高い基礎疾患として知られるが、その理由は不明だった。群馬大学生体調節研究所教授の白川純氏らは、筑波大学、横浜市立大学との共同研究で、マウス研究などから、肥満や糖尿病があると敗血症の発症により重症化しやすくなる機序に、免疫の調節に影響を及ぼす分子群S100A8が関与することを解明。肥満者や糖尿病患者における敗血症の重症化予防にも寄与する知見であると発表した。研究の詳細はiScience(2022年11月22日オンライン版)に掲載されている。
S100A8がサイトカインストームを抑制
肥満や糖尿病ではさまざまな臓器に慢性的な炎症が生じている。その炎症により細胞が障害を受けた際、細胞は免疫反応を調節するためにAlarmins(アラーミン)またはDamage-associated molecular patterns(DAMPs)と呼ばれる分子群を細胞から放出する。S100A8は、糖尿病状態にある膵β細胞において産生されるアラーミンの一種で、膵島の炎症に関与していることが報告されている。
そこで白川氏らは、肥満者や糖尿病患者におけるS100A8と感染症との関係を検討するため、敗血症ショックを起こした状態のマウスを用いた検討を実施。同マウスにS100A8を投与すると、生存率が有意に改善することが分かった。
また敗血症発症時にはS100A8は体内の免疫細胞から産生され、エンドトキシンなどの受容体であるTLR4を介して起こるサイトカインストームを抑制していることも明らかにした。
一方、感染症に罹患していない状況下においては、非肥満もしくは非糖尿病のマウスに比べ、肥満もしくは糖尿病のマウスでは血中S100A8レベルがより高いことが判明した。
しかし、肥満もしくは糖尿病のマウスや、S100A8遺伝子を欠損したマウスの免疫細胞は、敗血症発症時にS100A8を産生できず、敗血症ショックによりサイトカインストームが悪化し死亡率が高くなることも示された。
COVID-19の病態や重症化にも関与する可能性
以上から、白川氏は「今回の研究により、肥満や糖尿病があると敗血症で重症化しやすくなるメカニズムが新たに解明されるとともに、S100A8の適切な補充が敗血症の治療や重症化の予防に役立つ可能性も示唆された」と説明(図)。「敗血症同様、COVID-19の病態や重症化にも関与していると推測されるS100A8へのアプローチは、感染症による重症化リスクが高い患者の重症化抑制、致死率改善につながることも期待される」と述べた。
(群馬大学プレスリリース)
(陶山慎晃)