これまで好酸球性消化管疾患(EGID)の食事療法は、主に重症者に対し6種食物除去が行われていた。しかし、好酸球性胃腸炎(EGE)では効果が見られない症例が存在することから、新たな食事療法の開発が求められていた。国立成育医療研究センター研究所好酸球性消化管疾患研究室の永嶋早織氏、同室長の野村伊知郎氏らは、食物除去で改善しなかったEGE患者7例に自身らが開発したRainbow食事療法を実施したところ、血清アルブミン値、血液中の好酸球数、血清TARC値の正常化が得られ消化器症状が消失し、栄養不足などの有害事象は認められなかったとAllergol Int(2022年11月19日オンライン版)に発表した(関連記事「消化管アレルギーをどう診るか」「好酸球性上部消化管疾患の基礎と臨床」)。
副作用の少ない寛解導入維持治療を待望
EGIDは慢性的な消化管の炎症性疾患で、炎症が起こる部位に好酸球が集まることにより、嘔気・嘔吐、腹痛、下痢、栄養吸収障害などの症状が発現する。好酸球性食道炎(EoE)とEGEに大別されるが、欧米ではEoEが圧倒的に多く、逆に日本ではEGEが多い。5〜17歳の小児期にEGEを発症した患者は特に重症であり、数年から10年以上炎症が続く持続型が75%を占め、日常生活に制限がある例も70%に上る。
EGEの治療は経口ステロイドが中心で、効果は高いものの長期継続により成長障害などのさまざまな副作用が出現することがある。小児期は成長発達の重要な時期であることから、副作用の少ない新たな寛解導入、維持治療の開発が望まれていた。
イモ類、野菜、果物、アミノ酸と7種の調味料で構成
EoEに対しては食事療法の有効性も認められており、重症例にはエレメンタルダイエット(アミノ酸栄養剤のみを摂取)や6種食物除去(鶏卵、乳製品、小麦、肉類、魚介類、ナッツ類を除去)が行われる。しかし、食べる楽しみがないエレメンタルダイエットは継続率が極めて不良であること、6種食物除去は継続できても日本人では効果がない者が存在することが課題だった。
永嶋氏らは課題を解消すべく、野村氏が代表を務める厚生労働省研究班の研究に参加し食事療法を行った50例を対象に、アレルギーの原因食物を調査した。その結果、ほとんどの食物が1例以上の患者で炎症を起こしたものの、イモ類、野菜、果物で非即時型反応が起きた例はなかった。これを踏まえ、永嶋氏らはイモ類、野菜、果物とアミノ酸栄養剤を組み合わせることで、炎症を引き起こさずに十分な栄養が摂取でき、食べる楽しみも兼ね備えた食事療法の開発に着手した。
これら3種の食物とアミノ酸栄養剤に加え、調味料は食物加水分解物を多く含みアレルギーを誘引する可能性があることから、安全性を確認した7種(塩、砂糖、醤油代替食品、スープの素、昆布液体だし、トマトケチャップ、ノンオイルドレッシング)のみに限定する構成のRainbow食事療法を開発した。
Rainbow食事療法は、①同療法により炎症を抑える寛解導入期(2~4週)、②同療法を維持しつつ食物を1つずつ再導入する再導入期-から成る(図1)。同氏らは今回、寛解導入期の安全性と忍容性を評価した。
図1. Rainbow食事療法の概略図
対象は2010年1月~18年12月にEGEと診断され、国立成育医療研究センターで食事療法を受けた患者23例のうち、改善が得られなかった7例(年齢2~17歳、男児6例、持続型EGE 5例、胃腸炎1例、十二指腸炎1例)。Rainbow食事療法を実施し、2~4週の寛解導入期における安全性、忍容性、症状、栄養摂取量、臨床検査値の変化を評価した。
7例中6例が2〜4週の寛解導入期を完遂し(中央値15日、範囲14~30日)、1例は7日目に途中離脱した。解析の結果、7例全例がRainbow食事療法を開始後、消化器症状が消失し、血清アルブミン低値、血中好酸球数高値、血清TARC高値の正常化が見られた。なお、栄養不足などの有害事象は認められなかった(図2)。
(図1、2とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)
以上を踏まえ、永嶋氏らは「日本人EGE患者に対するRainbow食事療法の安全性と忍容性が示された。今後は症例数を増やして効果の検証を行うとともにエビデンスを積み上げ、よりおいしい食品をつくれるよう改良を重ねる。さらに、免疫学的研究を進めてアレルギー原因食物特定検査法を開発することも検討している」と述べている。
(小野寺尊允)