小児期に慢性疾患を発症した患者が、成人後も病態・合併症の年齢変化や身体的・人格的成熟に即して適切で必要な医療を受けられるよう、切れ目のない支援を行う成人移行支援は、医療の在り方や患者の社会生活を考える上で重要である。日本小児科学会は11月25日、「小児期発症慢性疾患を有する患者の成人移行支援を推進するための提言」(以下、新提言)を公式サイトで発表した(関連記事「アトピー性皮膚炎の成人移行、要点は?」)。
行政の支援事業が展開されるも課題残る
日本小児科学会が2014年に「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」(以下、2014年提言)を発表して以降、移行期医療の重要性が認識されるようになり、関連法の整備や移行期医療支援センターの設置など複数の支援事業が展開されてきた。しかし、成人期医療機関の不足、患者と家族の治療や合併症などに関する知識不足、アドヒアランス不良、支援体制の未確立などさまざまな課題が残る他、小児科医の間でも移行期医療に関する基本的な考え方が十分に共有されていないという。
同学会は新提言を作成するに当たり、医療だけでなく健康・福祉など包括的な支援を提供することを示す「成人移行支援」という用語を新設。患者がヘルスリテラシーを獲得し、切れ目のない医療支援を受けつつ社会において自律・自立した成人として自分らしい生活が送れようになることを目的とした(図)。
図. 成人移行支援の概念
(日本小児科学会提言より抜粋)
転科支援では患者のニーズに合ったヘルスケアを提供
新提言では、「成人移行支援」を推進するための基本姿勢、生涯を見据えた包括的支援、転科支援、体制整備およびその他の必要な対応について言及。中でも2014年提言と比べ詳細に示されたのが、転科支援についてである。
転科支援では、大原則として「患者および家族が望まない転科を推し進めてはならない」ことを強調している。特に知的障害・発達障害を有する患者、多臓器疾患を有する患者、継続的な医療的ケアが必要な患者には十分配慮する必要があるとした。しかし、①小児科では対応できない成人疾患がある、②妊娠・出産への対応ができない、③成人患者が小児科外来に違和感を持つ、④小児病棟では成人患者を受け入れられない―ことを挙げ、小児診療医は成人診療医と連携し転科や併診を基本とした成人期の診療体制を構築していくことが望ましいと指摘した。
また、転科支援の重要な要素として自律・自立支援を挙げた。患者が転科前に自己管理能力やヘルスリテラシーを獲得できないと、受診が途切れてしまったり病状が悪化したりする場合があるという。患者とともに管理しやすい携帯可能な医療サマリーを作成し、可能なら転科後も継続して使用することを推奨した。
転科の時期は疾病の種類や重症度、転科先の診療科の状況、患者・家族の社会的状況などに応じて個別化し、転科後6カ月程度をめどに必要な医療が維持されているかどうかを確認。継続困難と判断した場合は小児科と転科先の診療科で十分な情報交換を行い、適切に対応すべきとの考えを示した。
転科先を見つけることが困難な患者も
新提言では転科支援を推奨する一方、転科が困難な事例が多い点にも言及。例えば小児期発症の知的障害・発達障害患者は、成人期に不安、うつ、人間不信、パニックなどを併存することが少なくないが、発達障害の診断をしても治療は行わない精神科がある。多臓器障害を有する症候群は精神・運動発達遅滞を合併する場合も多く、複数の専門医の管理が必要なため移行が困難なケースが多い。これらを踏まえ、発達障害児や医療ケア児の移行には行政を含めた多方面の関与が必要であると指摘した。
また、患者の受け入れに際しては、成人医療機関と小児医療機関との間で情報交換や患者・家族へのサポートを含めさまざまな対応が必要となるため、行政に対し双方の負担に見合った診療報酬と補助金を含めた支援の在り方を検討することも要望した。
その上で、小児期発症慢性疾患領域では成人期の病態や予後などに関するエビデンスが不足していることを挙げ、今後は成人移行支援に関する知識、技能の習得とともに心のケア、就労・生活支援など社会的制度の在り方など、多くの課題に継続的に取り組むとしている。
(植松玲奈)