出生前検査で交叉反応性免疫物質(CRIM)陰性のポンぺ病と診断された胎児への子宮内における酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)に成功ー。米・Duke UniversityのJennifer L.Cohen氏らがN Engl J Med2022年11月9日オンライン版)に報告した。子宮内治療と、出生後の標準治療を受けた患児は生後13カ月時(最新の評価時)、栄養状態と成長過程は良好だという。

胎児期に進行するため、母体内での治療が必要

 ポンぺ病は、α-グルコシダーゼ(GAA)酵素が少なかったり、欠乏したりすることでグリコーゲンが分解されず、細胞に蓄積して引き起こされるライソゾーム病の1つである。早発性ライソゾーム蓄積症の患児は出生前から子宮内で臓器障害が進行し、出生時に筋緊張低下などが起こるため、早期の治療が必要となる。13万8,000~22万6,600人に1人の割合で発症(台湾など、発症率の高い集団では5万人に1人)するとされ(Eur J Hum Genet1999; 7: 713-716Int J Neonatal Screen 2020; 6: 9Mol Genet Metab 2012; 106: 281-286)、治療しなければ2歳までに死亡するといわれている。

 Cohen氏らは今回、ムコ多糖症Ⅶ型マウスモデルにおける子宮内ERT試験の結果に基づき、出生前に発症し、遺伝子組み換えERTが施行可能な8つのタイプのライソゾーム病に対する子宮内ERTの第Ⅰ相試験IUERTを実施した。

 患児の母親は妊娠経験12回、出産経験4回の37歳の女性で、以前に生んだ同胞のうち3人がCRIM陰性乳児ポンぺ病により死亡していた。ポンぺ病の最初の児は生後5.5カ月で診断されて免疫寛容導入療法やERTを受けたが29カ月で病状進行により死亡した。2番目の児は、選択的中絶となった。3番目の児は羊水検査により発覚し、緩和治療を受けたが生後8カ月で心肺機能不全により死亡していた。今回の患児は出生前の絨毛採取検査で乳児発症のポンペ病と診断されていた。

臍帯静脈からアルグルコシダーゼアルファ投与

 患児は、臍帯静脈からアルグルコシダーゼアルファ(20mg/胎児の推定体重Kg)を妊娠24週5日に開始し、34週5日まで2週間置きに計6回投与した。毎回少量の血液を採取し、投与が成功したかを確認するとともに、GAA酵素活性の血漿トラフ値と血清中の抗薬物抗体価を測定した。

 患児は妊娠37週4日で出生した。以前に同じ病気で死亡した同胞のデータと比較したところ、心室肥大や心電図異常は認められず、胎盤のグリコーゲン蓄積も見られなかった。筋肉の損傷マーカーとなるクレアチニンキナーゼレベルは生後4日目、最新の評価(13カ月)ともに正常であった。運動障害も見られず、年齢相応の粗大運動と微細運動の能力、正常な筋緊張、筋力を持ち、11.5カ月には自立歩行を行った。

出生後は免疫寛容導入療法で治療

 出生後の治療については、生後1日目にCRIM陰性乳児発症ポンペ病への標準治療として、米食品医薬品局(FDA)が承認したIUERT試験プロトコルに従った免疫寛容導入療法を受けた。4日目と、その後1週間置きにアルグルコシダーゼアルファ(1回当たり20mg/kg)を投与した。最新の知見を踏まえ、生後9.6カ月後からは2週間間隔で40mg/kgに、11.3カ月後には毎週40mg/kgに移行した。

 以上の結果から、Cohen氏らは「子宮内ERTにより胎盤のグリコーゲン沈着の減少が認められ、母児に対する安全と有効性が示された」と結論。「今回の第Ⅰ相試験の知見は、より大規模コホートにおいてさらなる安全性や有効性の検討につながるだろう」と展望している。

(平吉里奈)