米・Stanford University School of Medicineの山梨豪彦氏らは、2型糖尿病患者に対するメトホルミンの投与がせん妄および死亡率に及ぼす影響を検討するため、2型糖尿病患者506例を対象に後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、メトホルミンを服用した2型糖尿病患者では、メトホルミンを服用していない患者に比べてせん妄リスクと死亡率がいずれも低下したとAging(Albany NY)(2022年11月18日オンライン版)に報告した。

2型糖尿病にせん妄リスクを増加させる可能性

 せん妄は高齢者によく見られる重篤な疾患であるが、有効な治療法や予防法はない。せん妄の主要な危険因子の1つに認知症があるが、せん妄によって認知症が進行することも知られている。一方、近年では認知症と2型糖尿病が関連する可能性が指摘されており、2型糖尿病はせん妄リスクも増加させることが示唆されている。

 メトホルミンは認知症を含む加齢性障害を改善し、死亡率を低下させることが報告されているが、メトホルミンとせん妄に関する報告は限られている。

 そこで山梨氏らは、2型糖尿病患者に対するメトホルミンの投与が、せん妄および死亡率を低下させるかどうか検討することを目的とした後ろ向きコホート研究を実施した。

 対象は、2016年1月〜20年3月にUniversity of Iowa Hospitals and Clinics (UIHC)で別の研究のために募集した1,404例のうち、糖尿病に罹患していた506例(平均年齢69.7歳、女性51.4%、白人95.3%)。そのうちメトホルミン服用群は264例、メトホルミン非服用群は242例であった。

 1型糖尿病および妊娠糖尿病患者は除外した。試験登録時にメトホルミンの服用歴がない対象者をメトホルミン非服用群、それ以外の対象者をメトホルミン服用群に分類した。

 対象者のせん妄状態は、Confusion Assessment Method for Intensive Care Unit(CAM-ICU)陽性、Delirium Rating Scale-Revised-98(DRS-R-98)19以上、Delirium Observation Screening Scale(DOSS)3以上、またはせん妄に一致する混乱や精神状態の変化の証拠を示すカルテの記述に基づき定義した。全死亡率はカルテおよび死亡報告書のレビューから収集した。

メトホルミン服用で3年死亡率が31%低下

 解析の結果、せん妄の有病率はメトホルミン非服用群で36.0%、メトホルミン服用群で29.2%であった。メトホルミン服用は、交絡因子を調整後もせん妄リスクの減少と関連が見られた〔オッズ比(OR)0.50、95%CI 0.32~0.79〕。

 3年死亡率は、メトホルミン非服用群(生存率0.595、95%CI 0.512~0.669)の方が、メトホルミン服用群(同0.695、95%CI 0.604~0.770)より有意に高かった(P=0.035)。メトホルミン服用は、交絡因子を調整後の3年死亡リスクを低下させた〔ハザード比(HR)0.69、95%CI 0.48~0.98〕。

 以上から、メトホルミンの服用は、2型糖尿病患者におけるせん妄および死亡のリスクを低下させることが示された。

 今回の結果について、山梨氏らは「観察された2型糖尿病とせん妄の関連性そのものは新しいものではないが、メトホルミンのせん妄に対する予防的役割は独自のものであり、このような潜在的な関係を示した最初の報告である」と述べている。

(今手麻衣)