水痘・帯状疱疹ウイルスが引き起こす血管障害が心血管疾患(CVD)発症に関与することを示唆するエビデンスが相次いで報告されている。米・Brigham and Women's HospitalのSharon G.Curhan氏らは、同国の3つの大規模コホート研究の対象者20万人以上を対象に、帯状疱疹脳卒中および冠動脈性心疾患(CHD)の長期的リスクとの関連を検討。その結果、リスクの上昇は脳卒中でより顕著で、帯状疱疹発症から5〜12年後には、帯状疱疹の未発症例に比べ30%前後上昇し、13年以降も持続する傾向が認められたとJ Am Heart Assoc2022;e027451)に報告した。

高リスク状態が12年、あるいはそれ以上持続か

 Curhan氏らは、脳卒中やCHDの既往歴のない男女20万5,030例のデータを含む米国の3つの大規模コホート研究のデータを用いて、帯状疱疹脳卒中およびCHDの長期的リスクとの関連を検討した。

 解析対象となったコホート研究は、①Nurses' Health Study(NHS:女性7万9,658例、平均年齢65.8歳)、②Nurses's Health StudyⅡ(NHSⅡ:女性9万3,932例、平均年齢46.2歳)、③Health Professionals Follow-Up Study (HPFS:男性3万1,440例、平均年齢69.5歳)。

 最長16年に及ぶ追跡期間中に、隔年で対象者に質問票に回答してもらい、帯状疱疹脳卒中、CHDの発症の有無などを調べるとともに、医療記録を用いて調査を行った。247万1,975人・年の追跡期間中に3,603例が脳卒中、8,620例がCHDを発症した。

 対象を帯状疱疹既往歴の有無別に分類し、既往歴のある例は帯状疱疹発症からの経過年数別(1~4年、5~8年、9~12年、13年以降)で層別化し、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて脳卒中およびCHDの多変量調整ハザード比(MVHR)を比較検討した。

 全コホートを統合し解析した結果、帯状疱疹既往歴のない群と比べ既往歴がある群での脳卒中のMVHRは、帯状疱疹発症からの経過期間が1〜4年で1.05(95%CI 0.88〜1.25)、5〜8年で1.38(同1.10〜1.74)、9〜12年で1.28(同1.03〜1.59)、13年以上で1.19(同0.90〜1.56)と、長期的にリスクが持続する傾向が認められた。

 また、帯状疱疹発症からの経過期間別に見たCHDのMVHRは、経過期間が1〜4年で1.13(95%CI 1.01〜1.27)、5〜8年で1.16(同1.02〜1.32)、9〜12年で1.25(同1.07〜1.46)とリスクの上昇が認められ、13年以上では1.00(同0.83〜1.21)だった。

免疫不全を有する女性もCVD複合イベントの高リスク

 CVDの複合イベントについても検討。帯状疱疹の既往歴がない群と比べある群でのMVHRは、帯状疱疹発症からの経過期間が1〜4年で1.11(95%CI 1.01〜1.23)、5〜8年で1.26(同1.13〜1.41)、9〜12年で1.27(同1.11〜1.46)とリスクが高く、13年以降は1.08(同0.92〜1.28)だった。

 また、潜在的な免疫不全状態の有無別に層別化して解析したところ、3つのコホートのうちNHS Ⅱのみ、免疫不全を有さない例に比べ有する例で帯状疱疹発症から5年以降の脳卒中(交互作用のP=0.05)、CHD(同P=0.03)、CVDの複合(同P=0.02)リスクが高かった。

 これらの知見を踏まえ、Curhan氏らは「帯状疱疹の既往はCVD発症に長期的な影響を及ぼすことが示唆され、帯状疱疹発症の予防が重要となる」と結論。CVD発症のメカニズムについては「水痘・帯状疱疹ウイルスが血管壁の損傷、動脈解離、動脈瘤を引き起こし、虚血性または出血性のCVDの引き金となる可能性がある。血管障害は慢性的かつ長期化する可能性があり、帯状疱疹の発症から数年後にCVDのリスク上昇をもたらすことがありうる」と考察している。

 一方、今回の研究の多くは帯状疱疹に対する予防ワクチンが広く利用可能になる前に実施されているが、予防ワクチンの利用が可能になった後も同ワクチンの接種率はおおむね低い状態が続いていることから、「今後、ワクチン接種の有無が帯状疱疹の発症やCVD発症リスクにどのような影響を及ぼすかについて評価する必要がある」と付言している。

(菅野 守)