米・Johns Hopkins University School of MedicineのWilliam M. Garneau氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し経口抗ウイルス薬ニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッドパック)を投与された妊婦47例の転帰を記述的研究で検討。同薬に関連する合併症や重篤な副作用は確認されず、副作用による投与中止は2例のみで忍容性が高かったと JAMA Netw Open2022; 5: e2244141)に発表した。同氏らは「ニルマトレルビル/リトナビルは投与が簡便なため、外来診療における妊娠中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対する第一選択薬になりうる」と期待を示している。同薬は日本でも今年(2022年)2月、2番目のCOVID-19経口薬として特例承認された。

6割弱が妊娠第3期に投与

 ニルマトレルビル/リトナビルの投与対象は、COVID-19の重症化リスクが高い12歳以上の軽症・中等症COVID-19患者。妊婦または妊娠している可能性のある女性に対し、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。添付文書では、妊娠ウサギにニルマトレルビルを投与した実験において、臨床曝露量(AUC)の10倍に相当する用量で胎児体重の減少が認められている。また、妊娠ラットにリトナビルを投与した実験において、胎盤を通過して胎児へ移行することが報告されている」と記載されている。

 今回の対象は、2021年12月22日~22年8月20日にJohns Hopkins Health SystemでSARS-CoV-2感染が確認され、ニルマトレルビル/リトナビルを投与された妊婦47例〔年齢中央値34歳(範囲22~43歳)〕。

 投与時点での児の在胎週数の中央値は28.4週(範囲4.3~39.6週)。投与時期は妊娠第3期(トリメスター)が27例(57.4%)、妊娠第2期が16例(34.0%)、妊娠第1期が4例(8.5%)だった。

 発症からニルマトレルビル/リトナビル投与開始までの期間の中央値は1日(範囲0~5日)。産婦人科医による処方が37例(78.7%)だった。

6割超に重症化危険因子、半数超がBMI 25以上

 SARS-CoV-2ワクチンを少なくとも1回接種済みだったのは40例(85.1%)。米疾病対策センター(CDC)と米国感染症学会(IDSA)がニルマトレルビル/リトナビル外来投与の適応と定め、COVID-19重症化の危険因子になりうる併存疾患を有する者が30例(63.8%)に上った。BMI 25以上の過体重が24例(51.1%)と最も多かった。

 ニルマトレルビル/リトナビル投与に伴う重篤な副作用は認められず、副作用による投与中止は2例(4.3%)のみで、同薬に関連する合併症はなかった。

 米・University of Connecticutによる研究でも同様の結果が示されており、ニルマトレルビル/リトナビルを投与したCOVID-19の妊婦7例全例で症状が改善し、有害な妊娠転帰は認められなかったという(Obstet Gynecol 2022; 140: 447-449)。

予想外に多い帝王切開による分娩

 追跡期間が短かったこともあり、報告の時点でニルマトレルビル/リトナビル投与後に分娩に至った妊婦は25例(53.2%)だった。

 帝王切開による分娩が12例(48.0%)と予想外に多かった。12例中9例(75.0%)が予定帝王切開で、内訳は予定反復帝王切開4例、骨盤位の既往歴あり2例、癒着胎盤、選択的初回帝王切開、特記なき予定帝王切開が各1例だった。緊急帝王切開3例の内訳は、双胎妊娠で第一児の経腟分娩後に分娩停止、胎児の分娩不耐、羊水過少および骨盤位が各1例だった。

 以上の結果を踏まえ、Garneau氏らは「SARS-CoV-2感染妊婦におけるニルマトレルビル/リトナビルの安全性と有効性を裏付けるものである」と結論。「SARS-CoV-2感染に有効な治療選択肢の多くは静脈内注射(レムデシビル、回復期血漿、モノクローナル抗体)であり、経口薬も使用可能だが妊婦には禁忌(モルヌピラビル)である。それらに対し、ニルマトレルビル/リトナビルは経口薬のため投与が簡便で、SARS-CoV-2感染妊婦に対する外来診療での第一選択薬になりうる」と付言している。

(太田敦子)