高齢化の進展により日本の年間死亡者数は今後増加すると予測されており、政府は医療システムの負担増に対応するため医師による訪問診療や在宅での看取りを推進している。ただし、在宅での死亡割合は過去20年間ほとんど変化していない。日本医療福祉生活協同組合連合会家庭医療学開発センターPractice-based research network運営委員長の渡邉隆将氏らは、在宅療養中の高齢患者の追跡調査を行い、在宅での累積死亡率および在宅死に関連する因子を検討した結果をGeriatr Gerontol Int(2022; 22: 1005-1012)に発表した。この報告は、日本で医師主導の在宅医療訪問を受けている患者の予後を訪問診療開始時から前向きに評価し、生物社会的観点から在宅死の危険因子を検討した日本初の多施設コホート研究EMPOWER Japan Studyの結果を解析した第2報となる。
在宅療養開始直後に在宅死が急増するも、その後は横ばいに
EMPOWER Japan Studyでは2013年2月1日~16年1月31日に東京大都市圏の医療施設13施設から、在宅で医師主導の定期的な医療を受け始めた65歳以上の患者762例を登録。2017年1月31日まで前向きに追跡し、生物医学的項目〔①性、②年齢、③がんの有無、④栄養状態(血清アルブミン値)、⑤基本的日常生活動作(BADL、Barthel Indexスコアで判定:0~100点、点数が高いほど自立度が高い)、⑥褥瘡治療の有無、⑦酸素療法の有無〕、心理的事項〔⑧認知症の有無、⑨うつ傾向(Cornell認知症うつ病尺度)〕、社会関連変数(⑩常勤介護者の有無、⑪一人暮らしかどうか、⑫生活保護受給の有無)を用いて在宅死と関連する因子を検討した。
35万2,964人・日(966.4人・年、平均463.2日、中央値399日)の追跡期間中に368例が死亡した。死亡場所は自宅が133例(36.1%)で、その他の場所が235例(63.9%)だった。その他の場所の内訳は、病院が215例(58.4%)、介護施設が18例(4.9%)、不明が2例(0.5%)。在宅死は1,000人・年当たり137.6人(95%CI 116.1~163.1人)だった。
在宅療養開始直後は在宅死が他の場所での死亡よりも多かったが、その後在宅での累積死亡率の上昇幅は緩やかだったのに対し、その他の場所での累積死亡率は追跡期間終了まで比較的一定の割合で上昇した(図)。
図.累積死亡率の推移
(Geriatr Gerontol Int 2022; 22: 1005-1012)
自立度が高いと在宅死への備えが十分でない?
在宅療養開始直後に在宅での死亡率が急上昇したのは、在宅で看取ることを前提に在宅療養を導入した終末期患者のためであると考えられた。また、在宅での累積死亡率が早期にプラトーに達した背景には、在宅療養導入時の患者の状態や環境が強く影響している可能性が示唆された。
多変量ロジスティック回帰分析で在宅死に関連する因子を検討したところ、①年齢〔相対リスク比(RRR)1.36、P=0.045)、②Barthel Indexスコア60点以上〔60~84点(同0.47、P=0.03)、85点以上(同0.30、P<0.01)〕、③酸素療法あり(同2.36、P=0.02)、④常勤介護者あり(同2.62、P=0.02)-が有意な因子として抽出された。②については、自立度が高いほど在宅死のリスクが低いという結果だった。
渡邉氏らは「今回報告した在宅死に関連する一連の因子から、患者とその家族の将来の死に対する準備との関係が示唆された。例えば、在宅療養導入時にBADLの自立度が高い場合、患者本人や患者を取り巻く環境は、在宅死への備えが十分でないことを意味する可能性がある」と考察し、今後さらに在宅療養患者の実態について明らかにすべく解析を進める予定としている。
(中原将隆)