新潟大学大学院生活習慣病予防・健診医学講座特任教授で新潟県労働衛生医学協会理事の加藤公則氏は、新潟県の人間ドック受診者を対象にしたコホート研究新潟ウェルネススタディのデータを用い、随時尿による24時間推定尿中食塩排泄量(e-NaCl)と血圧の季節変動との関連を検討。その結果、e-NaClと血圧との間に強い相関が見られ、気温が上昇する夏季にe-NaClが減少し血圧も低下したとHypertens Res2022年10月16日オンライン版)に発表した。同氏らは「発汗によるナトリウム(Na)排泄が腎臓への負担を減らし、夏の血圧低下につながったと考えられる」と説明している。

食塩摂取量より排泄量と強い相関

 対象は、2012年8月~13年3月に新潟県労働衛生医学協会の人間ドックを受診し、降圧薬を服用中の者とクレアチニン値が2.0mg/dL超の者を除外した1万9,732例(平均年齢51.7歳、男性58.1%)とした。田中式を用いてe-NaClを算出し、食物摂取頻度質問票を用いた聞き取り調査により食塩摂取量(i-NaCl)を評価。月間平均血圧とe-NaCl、i-Nacl、平均、体重との関連を検討した。

 解析の結果、収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)とi-NaClはいずれも弱い相関(相関係数R=0.2498、R=0.2137)、年齢(同0.7718、0.7270)は強い相関が見られ、体重(同0.5996、0.5242)については正の相関を示し、e-NaClとの相関が最も強かった(同0.9335、0.9268、)。

図. SBPとe-NaClの相関関係

Hypertens Res 2022年10月16日オンライン版

 年齢および性を調整後の解析でも、e-NaClとSBP(R=0.8717)およびDBP(R=0.8335)との強い相関が維持されていた。

夏は汗へのNa排泄が増加し尿への排泄は減少

 気温、血圧、e-NaClの関連を検討した結果、1月(新潟県の月間平均気温1.8℃)から8月(同27.9℃)にかけて気温の上昇とともにSBPが低下し(R=-0.7028)、e-NaClが減少していた(R=-0.8845)。

 加藤氏らは「月間平均気温とe-NaClとの関連には発汗量が強く関係していると考えられる。摂取した食塩は全てが尿中に排泄されるわけではなく、便や汗としても排泄され、尿中食塩排泄量は季節により変化する」と指摘。「夏に血圧が低下するメカニズムとして、夏は発汗による食塩排泄量が増加するため、尿中食塩排泄量が減少して腎臓への負担が軽減され、血圧低下につながったと考えられる」と考察している。

若年に比べ高齢での強い関連に塩分感受性が関与

 サブグループ解析では、SBPとe-NaClとの相関係数は男性でR=0.8731、女性でR=0.8224、若年者(52歳未満)でR=0.5609、高齢者(52歳以上)でR=0.8932、若年男性でR=0.3933、若年女性でR=0.2875、高齢男性でR=0.8849、高齢女性でR=0.7668だった。

 SBPとe-NaClとの相関に男女差はなかったが、若年で弱く高齢で強くなる傾向が見られた。この結果について、加藤氏らは加齢に伴う食塩感受性の変化が関与した可能性を指摘し、「食塩感受性高血圧を有する者では、腎臓で食塩を適切に排泄できないため、食塩の過剰摂取により血圧が上昇することが知られている。食塩感受性は加齢に伴い増大する」と説明している。

 なお、この研究は横浜市立大学病態制御内科学・循環器・腎臓・高血圧内科学准教授の石上友章氏、新潟大学大学院血液・代謝・内分泌学講座教授の曽根博仁氏との共同研究である。

加藤公則氏のコメント

 今回の解析の基盤となった研究は、24時間蓄尿を用いて厳密に尿中塩分排泄量を調べた論文で、既に尿中食塩排泄量が季節性変化を示すことが証明されており、これは発汗による塩分喪失の影響と考えられている。

 当然、われわれの研究では随時尿を用いているので、24時間蓄尿法に比べるとばらつきが大きくなることが想定されるが、月ごとに約1,000~2,000人の平均値で見ていくと、月ごとの平均気温とe-NaClの相関性が高いことが証明された。

 これは、月ごとの平均値で見たことでさまざまな条件が関与している個体間のばらつきが相殺され、そのばらつきによって隠されていた関係性が見事に表面に出てきたのではないかと推察している。そして、血圧の平均値とe-NaClの平均値の相関関係が0.9以上という完璧な相関関係を見いだせたことが、この論文の特筆すべき点である。

 また、発汗の影響を新潟県の月ごとの平均気温で示すという発想を得られたことが、さらにこの論文の価値を高めたとも考えている。

Am J Clin Nutr 1984; 40: 786-793.

陶山慎晃)