肝性脳症肝硬変患者に合併する神経機能異常であり、不顕性肝性脳症(CHE)は肝性脳症の特異的な症状がない場合でも神経生理学的検査では異常が認められる初期病態である。CHEは転倒・骨折、交通事故、QOLの低下、予後不良と関連することから、欧州肝臓学会(EASL)は肝硬変患者全例に対するスクリーニング実施を提言しているものの現実的ではない。岐阜大学大学院消化器内科学分野教授の清水雅仁氏らは、肝硬変患者に合併するCHEのスクリーニング法および顕性肝性脳症(OHE)のリスク評価に有用な簡易スコアリングシステムsCHEスコアを開発したとPLoS One2022; 17: e0277829)に発表した(関連記事「不顕性肝性脳症の診断基準を検証」「肝硬変の近未来診療」)。

血液検査のみを用いた簡易なリスク評価法

 肝硬変患者に対するCHE検査には熟練した検査者、特殊な検査機器、検査時間、コストを要するため、全例への実施は現実的でないことから、肝硬変患者におけるCHEのリスクを評価する簡便な評価法の開発が急務となっている。

 そこで清水氏らは、血液検査のみを用いた簡便なリスク評価法の開発に着手。後ろ向き研究でCHEのスクリーニングおよびOHEのリスク評価における有用性を検討した。

 対象は2011年1月~19年6月に岐阜大学病院で神経生理学的検査を行った肝硬変患者381例〔平均年齢70歳、男性242例(64%)〕。79例(21%)がCHEと診断され、非CHE例に比べCHE例は高齢で(69歳 vs. 74歳、P=0.045)、血清アルブミン値が有意に低く(3.7g/dL vs. 3.4g/dL、P<0.001)、血清アンモニア値は有意に高かった(53Mg/dL vs. 61Mg/dL、P=0.005)。年齢、性、肝硬変の病因、血清アルブミン値、血清アンモニア値を調整した多変量解析の結果、CHEと独立した関連を有する因子として血清アルブミン値〔オッズ比(OR)0.61、95%CI 0.41~0.91、P=0.020〕、血清アンモニア値(同1.01、1.00~1.02、P=0.004)が抽出された。

 この結果に基づき、低アルブミン血症(3.5g/dL以下)、高アンモニア血症(80μg/dL以上)を各1点とする血液検査のみから判定するシンプルなsCHEスコアを考案した。

 381例のうちsCHEスコアは0点が48%(184例)、1点が33%(126例)、2点が19%(71例)で、CHE有病率はそれぞれ14%、21%、37%とスコアが上昇するほど高まった。スコア0点の例に比べ、1点以上の例ではCHE有病率が有意に高かった(14% vs. 27%、P=0.002)。sCHEスコア1点以上によるCHEスクリーニングの感度は67%、特異度は56%、陽性的中率は27%、陰性的中率は86%だった。

 中央値で2.2年(四分位範囲1.1~3.8年)の追跡期間中に58例(15%)がOHEを発症し、103例(27%)がOHEを発症せずに死亡した。OHE発症までの期間の中央値は1.2年(四分位範囲0.3~2.2年)で、1年、3年、5年のOHE累積発症率はそれぞれ7%、15%、19%だった。

 Fine-Gray回帰モデルを用いて部分分布ハザード比(SHR)を算出したところ、OHE発症の予測因子として血清アルブミン値(SHR 0.60、95%CI 0.38~0.93、P=0.023)、血清アンモニア値(同1.01、1.00~1.02、P=0.026)が抽出された。この2つで構成されるsCHEスコア1点以上(同2.69、1.41~5.15、P=0.003)、CHE (同2.17、1.26~3.73、P=0.005)も独立した予測因子だった。OHE有病率は、sCHEスコア0点の例に比べ1点以上の例で有意に高かった(8% vs. 22%、P<0.001)。また非CHE例と比べCHE例ではOHE有病率が有意に高かった(P=0.001)。

sCHEスコア1点以上で検査実施が現実的

 sCHEスコアの陰性的中立率は86%と高いことから、同スコアが0点の患者は低リスク例として神経生理学的検査は実施せず、1点以上の患者に実施することが現実的であると清水氏らは考えた。その上でsCHEスコアに基づくOHEリスク分類を作成した()。

図. sCHEスコアを用いたOHEリスク分類

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(岐阜大学プレスリリースより)

 このリスク分類で見た5年間のOHE累積発症率は、低リスク群が9%、中リスク群が23%、高リスク群が43%だった(P<0.001)。

 以上を踏まえ、同氏らは「血液検査のみで簡便に評価できるsCHEスコアは、CHEのスクリーニングおよびOHEのリスク評価に有用であることが明らかになった」と結論。「今回の知見を取り入れたガイドラインなどの診療指針を策定し、検査を行うべき患者群を正確に見極め、早期診断と積極的な治療介入を行うことで、CHEを予防し肝硬変患者の予後改善につながることが期待される」と付言している。

(小野寺尊允)