糖尿病治療薬にとどまらず、いまや慢性心不全や慢性腎臓病(CKD)などの慢性疾患治療薬としての存在感を示しつつあるSGLT2阻害薬。昨年(2021年)8月には、ダパグリフロジンが糖尿病非合併のCKDに対する適応拡大承認を取得した。こうした動向を受け、日本腎臓学会は「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」(以下、適正使用recommendation)を策定。近年のエビデンスなどを踏まえ、「SGLT2阻害薬のCKD患者への積極的な使用を考慮する」とした推奨を、11月30日に公式サイトで示した。
eGFR 15mL/分/1.73m2未満は非推奨
現在、日本で販売されているSGLT2阻害薬は6剤に上る(表)。このうちCKDの適応を持つのはダパグリフロジンとカナグリフロジン(2型糖尿病合併例に限る)で、さらにエンパグリフロジンについても有効性・安全性の検証が進められている(関連記事:「エンパグリフロジンがCKD進行を28%抑制」)。
表. 日本で使用できるSGLT2阻害薬
(各薬剤の添付文書を基に編集部作成)
適正使用recommendationでは、現時点で明らかになった各種エビデンスを踏まえ、糖尿病の合併・非合併にかかわらずCKD患者に対し「SGLT2阻害薬の積極的な使用を考慮する」と記載。他に高血圧、貧血、脂質異常症、高尿酸血症の合併例に対しても「SGLT2阻害薬の投与は有用である可能性がある」とした。
一方、SGLT2阻害薬は尿糖排泄を促すという機序から腎機能低下例で効果が得られにくいと考えられており、CKD患者においても糖尿病の合併・非合併にかかわらず推算糸球体濾過量(eGFR) 20mL/分/1.73m2未満例へのエビデンスは示されていない。そこで適正使用recommendationでは、ダパグリフロジンとカナグリフロジンの添付文書上の適応が「末期腎不全または透析施行中の患者を除く」としている点などを踏まえ、CKDの重症度分類で末期腎不全に当たるeGFR 15mL/分/1.73m2未満例についてはSGLT2阻害薬を「新規に開始すべきでない」とした。
フレイル、サルコペニア合併への注意を喚起
SGLT2阻害薬をめぐっては、かねてフレイルやサルコペニアのリスクを高めるとの懸念が示されており、実臨床では高齢者が多いCKD患者に対して使いづらい状況も想定される。適正使用recommendationでは、「痩せている高齢日本人においては、SGLT2阻害薬によるカタボリズム亢進がサルコペニア・フレイルを助長する可能性があり、患者のリスクとベネフィットを勘案して投与を検討する」と注意を喚起し、「高齢CKD患者に投与する際には、サルコペニアやフレイルの発症・増悪に注意する」と記載した。
適正使用recommendationの推奨内容は以下の通りである。CKD患者への積極的な使用を推奨する一方、フレイル、サルコペニア以外にも低血糖、正常血糖ケトアシドーシス、尿路・性器感染症などに注意を促す内容となっている。
●SGLT2阻害薬は、糖尿病合併・⾮合併にかかわらず、CKD患者において腎保護効果を示すため、リスクとベネフィットを⼗分に勘案して積極的に使⽤を検討する。
●糖尿病合併CKD患者:アルブミン尿(蛋⽩尿)、腎機能に関係なく腎保護効果が期待されるため、クリニカルエビデンスを有するSGLT2阻害薬の積極的な使⽤を考慮する(eGFR 15mL/分/1.73m2 未満では新規に開始しない。継続投与して15mL/分/1.73m2 未満となった場合には、副作⽤に注意しながら継続する)。
●糖尿病"⾮"合併CKD 患者:蛋⽩尿陽性のCKD(IgA腎症や巣状分節性⽷球体硬化症など)には、原疾患の治療に加えてクリニカルエビデンスを有するSGLT2阻害薬の積極的な使⽤を考慮する(eGFR 15mL/分/1.73m2未満では新規に開始しない。継続投与して15mL/分/1.73m2未満となった場合には、副作⽤に注意しながら継続する)。
●糖尿病合併・⾮合併にかかわらず、SGLT2阻害薬投与後にeGFRの低下(eGFR initial dip)を認める場合があり、早期(2週間〜2カ⽉程度)にeGFRを評価することが望ましい。その後もeGFRが維持されていることを確認する。過度にeGFRが低下する場合は腎臓専⾨医への紹介を考慮する。
●⾼⾎圧、貧⾎、脂質異常症、⾼尿酸⾎症を有するCKDに対するSGLT2阻害薬の投与は有⽤である可能性がある。
●糖尿病"⾮"合併CKD患者においても、⾷事摂取量の不⾜、栄養不良状態、飢餓状態、激しい筋⾁運動、過度のアルコール摂取、副腎機能不全、下垂体機能不全、シックデイなどの状況下では低⾎糖や正常⾎糖ケトアシドーシスなどの代謝異常を⽣じる可能性があるため、SGLT2阻害薬の中⽌を考慮する。⾷事摂取ができない⼿術が予定されている場合には、術前3⽇前から休薬し、⾷事が⼗分摂取できるようになってから再開する。
●利尿薬を使⽤しているCKD患者や⾎糖コントロールが極めて不良な糖尿病患者では、脱⽔や急性腎障害を来す可能性があるため注意が必要である。
●⾼齢CKD患者への投与の際には、サルコペニアやフレイルの発症・増悪に注意する。
●SGLT2阻害薬は糖尿病"⾮"合併CKD患者においても尿路・性器感染症の発症・増悪が懸念されるため、投与後は注意を払う必要がある。
●多発性嚢胞腎、ループス腎炎、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連⾎管炎、免疫抑制療法中の患者へのSGLT2阻害薬投与に関しては、現時点で⼗分なクリニカルエビデンスが存在しないため、これらの症例に対しては、適応について慎重に判断する。
(平山茂樹)