【パリ時事】フランスで9日、終末医療に関する市民会議が始まる。抽選で選ばれた150人が参加し、現在は法律で禁じられている医師の薬物投与による「積極的安楽死」や、自殺ほう助の是非を焦点に議論。来年3月に結論をまとめ、政府が必要に応じ法改正を検討する。導入に慎重な意見も根強く、仏大統領府は「必要な時間をかけ、秩序ある穏やかな討論を保証する必要がある」と強調している。
 フランスでは2016年、深刻な苦痛を抱える末期患者本人が望んだ場合、延命措置を停止し、死に至るまで苦痛を取り除く「消極的安楽死」を認める法律が成立した。ただ、そうした緩和ケアを受けられる医療施設の整備や、事前の手続きに関する周知などが課題となっている。
 欧州ではオランダやベルギーが、積極的安楽死を認めている。スイスでは安楽死は禁止だが、医師が処方した致死薬を患者が自身に投与する自殺ほう助は合法だ。
 今年9月、仏映画界の巨匠ジャンリュック・ゴダール監督(91)がスイスで自殺ほう助を受けて死去した。昨年6月には、薬物投与による積極的安楽死を認めるようマクロン仏大統領に訴えながら却下された男性(58)が、同じくスイスで自殺ほう助により亡くなるなど、「死ぬ権利」を国外に求めるケースが相次いでいる。
 マクロン氏は9月、国家倫理委員会からの答申を受け、市民会議の開催を決定。記者団に「より人間らしくあるため、行動する必要がある」と述べ、現行制度改正の是非を議論する重要性を強調した。
 仏紙パリジャンによれば、世論調査では過半数が終末医療に関する法改正に賛成。国民議会(下院)でも、賛成する議員が与党を中心に過半数を占めているという。
 一方、仏キリスト教会評議会は7日の声明で「人間社会の尊厳は死ぬまで生に寄り添うことであり、死を後押しすることではない」と述べ、安楽死や自殺ほう助の容認に改めて反対姿勢を示した。パリのイスラム教指導者も、AFP通信に「自殺は私たちにとって罪だ」と主張。仏緩和ケア協会は9月、声明で「死を与えることは治療ではない」と反発している。 (C)時事通信社