佐賀大学病院高度救命救急センターの松岡綾華氏らは、同センターに72時間以上入院した18歳以上の重症患者633例を対象に、睡眠障害治療薬でオレキシン受容体拮抗薬(DORA)のスボレキサントおよびレンボレキサントによるせん妄の予防効果を検討。その結果、両薬ともせん妄の予防に有用な可能性が示唆されたと J Clin Psychiatry2023; 84: 22m14471)に発表した。DORAは従来の睡眠薬とは異なる作用機序を有し、覚醒をつかさどる神経伝達物質であるオレキシンの作用を阻害して睡眠効果を発揮するため、依存性が少ないという特徴がある。

スボレキサントとレンボレキサントで大幅減

 オレキシンは睡眠覚醒サイクルの調節に関与する神経ペプチドで、オレキシン受容体への結合により覚醒を促進する。オレキシン受容体を阻害するスボレキサントとレンボレキサントは睡眠障害の改善作用が示されており、スボレキサントはせん妄予防への有用性が報告されている。しかし、集中治療を要する重症入院患者のせん妄予防における両薬の有効性に関するエビデンスは少ない。

 今回の解析対象は、2018年7月~21年11月に佐賀大学病院高度救命救急センターでの入院期間が72時間以上だった18歳以上の633例。スボレキサントを投与された82例とレンボレキサントを投与された41例の計123例をDORA群(年齢中央値71歳、四分位範囲50~81歳、男性57.7%)と、DORA非投与の対照群510例(同69歳、50~81歳、63.5%)でせん妄発症リスクを比較した。せん妄の評価にはConfusion Assessment Method for the Intensive Care Unit(CAM-ICU)を用いた。

 単変量解析の結果、せん妄の発症率はDORA群に比べて対照群で有意に高かった(22.8% vs. 40.8%、P=0.0002)。

 Cox回帰モデルによる解析の結果、対照群に対するせん妄発症のハザード比(HR)はスボレキサント群で0.56(95%CI 0.36~0.86、P=0.0089)、レンボレキサント群で0.26(同0.11~0.62、P=0.0027)と、いずれもリスクが有意に低かった。

両薬のせん妄予防効果には有意差なし

 せん妄の危険因子を調整後も結果は同様で、スボレキサント群とレンボレキサント群におけるHRは患者背景、疾患の重症度、治療、併存疾患を調整後のモデル1でそれぞれ0.34(95%CI 0.21~0.54、P<0.0001)と0.19(同0.08~0.46、P=0.0003)で、モデル1に加え併用薬を調整後のモデル2では0.34(同0.20~0.58、P<0.0001)と0.21(同0.08~0.52、P=0.0008)と、有意なリスク低下が示された。

 また、スボレキサント群を対照としたレンボレキサント群のせん妄発症の調整後HRは0.61(95%CI 0.22~1.65、P=0.3283)と、両薬でせん妄予防効果に有意差はなかった。

 以上の結果から、松岡氏らは「スボレキサントおよびレンボレキサントはいずれも、集中治療を必要とする成人重症入院患者のせん妄予防に有用な可能性が示された。スボレキサントについてはこれまでの研究でせん妄の予防効果が示されており(JPM 2020; 81: 20m13362)、今後はランダム化比較試験でレンボレキサントのせん妄予防効果を検証する必要がある」と結論している。

(太田敦子)