スウェーデン・Karolinska InstituteのLe Zhang氏らは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬と心血管疾患(CVD)リスクとの関連を検討するため、19研究・400万例を対象としたメタ解析を実施。その結果、ADHD治療薬は一部のCVDリスクが高い傾向が見られるものの、有意な関連は示されなかったとJAMA Netw Open(2022; 5: e2243597)に報告した。
世界でADHD治療薬の使用率が上昇
ADHD治療薬は中枢刺激薬と非中枢刺激薬に分類されるが、いずれもADHDの中核症状の軽減に有効であることから、多くの国で使用率が大幅に上昇している。一方、中枢刺激薬メチルフェニデートによる心拍数の増加など、ADHD治療薬とCVDとの関連を示唆する報告もあり、安全性に対する懸念が残っている。
そこでZhang氏らは、ADHD治療薬(中枢刺激薬と非中枢刺激薬)とCVDとの関連を調べた観察研究を基に、MOOSE(Meta-analyses of Observational Studies in Epidemiology)ガイドラインに従い、メタ解析を実施した。
PubMed、EMBASE、PsycINFO、WebofScienceから、2022年5月1日までに発表された研究を検索。独立した審査員がデータを抽出し、Good Research for Comparative Effectiveness(GRACE)チェックリストを用いて研究の質を評価した。データはランダム効果モデルを用いてプールした。
解析対象は、2007〜2021年に発表された研究19件で、そのうち14件がコホート研究だった。研究参加者は6カ国(米国、韓国、カナダ、デンマーク、スペイン、香港)・393万1,532例(小児、青年、成人、男性60.9%)で、平均追跡期間は0.25〜9.5年(中央値1.5年)だった。
主要評価項目は高血圧、虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、静脈血栓塞栓症、頻脈性不整脈、心停止などを含むCVD全般とし、ランダム効果モデルを用いて各研究で報告されたハザード比、発症率比、オッズ比などをプールした調整相対リスク(RR)を算出した。
心停止または頻脈性不整脈でややリスク上昇するが、有意差はなし
メタ解析の結果、ADHD治療薬使用によるCVD全般のRRは、青少年で1.18(95%CI 0.91〜1.53、I2=84.5%)、若年〜中年で1.04(同0.43〜2.48、I2=95.5%)、高齢者で1.59(0.62〜4.05、I2=95.7%)と、いずれの年齢層においても、有意な関連は示されなかった。
サブグループ解析では、中枢刺激薬(RR 1.24、95%CI 0.84〜1.83)、非中枢刺激薬(同1.22、0.25〜5.97)のいずれもCVD全般との有意な関連は認められなかった。
特定の心血管転帰については、心停止または不整脈(RR 1.60、95%CI 0.94〜2.72)でややリスクが高い傾向が認められたものの、有意な関連はなかった。脳血管疾患(同0.91、0.72〜1.15)、心筋梗塞(同1.06、0.68〜1.65)などでも有意な関連は示されなかった。
女性(RR 1.88、95%CI 0.43〜8.24)およびCVD既往例(同1.31、0.80〜2.16)においても、ADHD治療薬とCVD全般との有意な関連はなかった。
以上から、Zhang氏らは「心停止または頻脈性不整脈についてはADHD治療薬の使用による若干のリスク上昇傾向が認められたものの、CVD全般との有意な関連は示唆されなかった」と結論。
研究の限界について、研究間の異質性が高い(I2=75%以上)ことを挙げた上で、「異質性は今回の結果を無効にするものではないが、慎重に解釈すべきである。また、女性とCVD既往例については、ADHD治療薬とCVDの長期リスクについてさらなる検証が必要である」と付言している。
(今手麻衣)