バージャー病および膠原病患者で生じる難治性虚血性下肢潰瘍は、血管炎や微小血管障害が背景にあるため有効な治療法がなく悪化すると下肢切断を余儀なくされる。順天堂大学大学院再生医学教授の田中里佳氏らは12月6日、自身らが開発した自己末梢血培養単核球細胞群(RE-01)の難治性虚血性下肢潰瘍への複数回投与による安全性と有効性を検討する医師主導治験を開始すると公式サイトで発表した。

低侵襲で簡便な血管再生治療

 これまで炎症性の閉塞性血管疾患であるバージャー病や、全身の臓器や血管に慢性の炎症が生じる膠原病の患者では、難治性虚血性下肢潰瘍が生じることがある。若年期に発症するため、QOLの低下や日常生活の困難、下肢切断による予後悪化などを防ぐ有効な治療法が求められるアンメットメディカルニーズの高い疾患の1つである。

 血管内皮駆細胞を用いた血管再生治療の複数の臨床試験において、一定の安全性と有効性が報告されている。しかし細胞を用いた血管再生治療は侵襲性が高く、糖尿病患者や透析患者では血管内皮前駆細胞の数が少なく、血管・組織再生能が低下しているため、自己細胞を用いた血管再生治療は十分な効果が得られていなかった。

 こうした課題に対し、田中氏らはより低侵襲かつ簡便に細胞が採取でき、より多くの機能的細胞を移植できる血管再生治療を実現するため、少量の血液で多くの機能的な再生細胞を増幅できる培養法の検討を進めてきた(J Am Heart Assoc 2014; 3: e000743Stem Cells Transl Med 2022; 11: 146-158)。

 その結果、独自の培養法を用いて自己末梢血培養単核球細胞群「RE-01」の作製に成功。血管内皮前駆細胞をはじめ機能的な再生細胞を多く含むため、血管新生・再生作用により微小血管を増やすことで組織中の血流量を増加させ、抗炎症作用や創傷治癒を促す作用を持つ。これらの複合的な作用から、炎症と虚血に起因する創傷の治癒が期待され、血管炎による微小循環障害により生じるバージャー病、膠原病患者の難治性下肢潰瘍に対する有用な治療法になりうると考えられている。

 また、侵襲は100~200mLの採血にとどめ、培養は培地交換や継代を行わずに短期間で作製できることから、低侵襲、低コスト、高効果な血管・組織再生治療として期待される。

 今回の治験の目標登録数は3例で、2022年8月~24年3月に順天堂大学病院で実施。対象は、従来の薬物療法では効果不十分かつ血行再建術が困難なバージャー病、膠原病により生じる難治性虚血性下肢潰瘍を有する患者。投与6日前に100~200mLの末梢血を採血してRE-01を作製、4週間隔で3回投与して安全性と有効性を確認する。投与終了後は約10カ月の経過観察を実施、定期的に来院での検査や診察を行い安全性と有効性を評価するとしている()。

図. RE-01投与のイメージ

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(順天堂大学プレスリリースより)

(小野寺尊允)