医療者は、患者との意思疎通において難解な医学用語の使用は避けるべきと分かっていても、しばしばこの禁を犯してしまう。英語の場合、日常的に用いられる一般用語が、医療現場では逆のニュアンスや異なる意味で使用されることも多い(negativeやpositive、occultなど)。米・University of Minnesota Medical School のRachael Gotlieb氏らは、そうした語句に焦点を当て、一般人を対象に理解度を問う横断研究を実施。結果をJAMA Netw Open(2022; 5: e2242972)で報告した。
ニュアンスや意味の異なる一般用語を中心に調査
Gotlieb氏らは、2021年に米・ミネソタ州で開催されたイベントの来場者から研究の参加者を募った。対象は18歳以上で医療職や医療研修の経験がなく、英語の読み書きができる215人(女性62.8%、平均年齢±標準偏差42±17歳、大卒以上65.1%)。質問票は13問から成り、内訳は日常での使用と医療現場での意味や善し悪しのニュアンスが異なる語句についてが9問、比較的難解な専門用語が2問、他の設問で用いた語句を、より平易な同じ意味の語句に置き換えたものが2問。全て、医師が患者との会話で用いそうな文章形式で提示した。回答形式は多肢選択式が8問、自由記述式が5問で、設問ごとに正答の自信度も聞いた。
調査にはタブレット型コンピュータを用い設問を文字で提示する群と音声で提示する群に参加者をランダムに割り付けて実施したが、参加者の背景および結果に両群間で差はなかったため、解析はデータを統合して行った。
主要評価項目はこれらの語句の正確な理解とし、副次評価項目は理解度と参加者の人口統計学的背景(年齢・性・学歴)との関連とした。
がん検診「negative」はほぼ全員理解、「occult infection」は2%未満
日常での使用とニュアンスが反対の語句については、がん検診において「negative」はがんがない意味だと正しく理解できた人は96.3%とほぼ全員だったが、「your tumor is progressing」が悪い情報であると理解していたのは79.1%、「positive lymph nodes」ががんの転移を意味すると正しく理解できた人は66.5%だった。これら3つの語句は2001年に発表された英国の研究でも用いられたが、今回の方が理解度が高かった。Gotlieb氏らは、想定される理由として、学歴の相違や新型コロナウイルス感染症の流行により医療用語としての「positive/negative」に対する理解度が高まったことなどを挙げている。
また、胸部X線像において「unremarkable」が良い意味だと理解できた人は79.5%と多かったが、「impressive」が悪い意味だと正しく理解できたのは20.5%のみだった。一般的にはunremarkableは「平凡な」、「impressive」は「良い意味で気になる=感銘を受ける」だが、医療現場ではそれぞれ「特に問題ない」「気になる部分(陰影)がある」という意味で用いられる。
さらに、神経画像検査における「grossly intact」(肉眼的損傷なし)が良い意味であることを理解していたのは41.4%、「bugs in your urine」が尿路感染症を指すことを理解していたのは28.8%にとどまり、「occult infection」(潜在感染)に至っては1.9%とほとんど知られていなかった。日常的には、grosslyは「気味悪い」「下品な」など悪い意味で用いられ、bugにはさまざまな意味がある。occultは日本で用いられる「オカルト」と同じく超自然現象を指すことが多い。
理解度の高い語句も平易に言い換えることで理解度が有意に上昇
比較的専門的な語句に関する設問では、「febrile」(発熱性の)および「NPO」(絶飲食。ラテン語non per osより)に対する理解は、それぞれ9.3%と11.2%でいずれも低かった。NPOの代わりに「nothing by mouth」を用いた別の設問では、75.3%と統計学的有意(P<0.001)に理解度が高まったが、それでもなお4分の1の者が理解しておらず、Gotlieb氏らは「You should not have anything to eat or drink」など、より平易な表現を心がけるべきと指摘している。
また、「Your blood culture was negative」(血液培養陰性)が良い意味だと理解していたのは86.5%と比較的高かったが、「Your blood test showed me that you do not have an infection in your blood」とした場合、理解度は96.7%と統計学的有意(P<0.001)に高まった。
年齢、性、学歴と理解度との間には、設問ごとに関連が見られる場合もあったが、一貫した関連は認められなかった。加齢とともに医学用語としての使用に接する機会も増えるはずだが、高齢と関連していたのは13問中2問にとどまった。
Gotlieb氏らは「一般用語の中には、医療現場で使用すると患者に誤解されてしまうものがあることが示唆された。患者の解釈はしばしば医療者が意図したものとは正反対であった」と結論。また「誤解を招きうる語句であるとの認識がなければ、医療者は使用してしまう。今後の研究では、そうした語句の特徴を把握し言い換え候補を検討していくべき」と付言している。
(小路浩史)