【北京時事】中国当局は12日、都市や省をまたぐ移動に際して、行動履歴を追跡するために使われてきたスマートフォンのアプリを13日から廃止すると発表した。追跡アプリによって、直近の滞在場所が新型コロナウイルス感染の高リスク地域となった場合、行動が著しく制限されるため、出張や旅行の妨げとなっていた。ウイルスの徹底封じ込めを図る「ゼロコロナ」政策が行き詰まり、なし崩し的に「ウィズコロナ」への転換が進む一方、各地で感染者が急増しているもようだ。
 アプリは個人の携帯電話にひも付けられ、訪れた都市の名前が表示される仕組み。今も飲食店などの利用に当たって提示を求められるアプリ「健康コード」と並んで、中国のコロナ規制を代表するものとなってきた。
 中国政府の公式発表による新規感染者数は減少傾向にあり、11日には8000人台だった。ただ、PCR検査自体が減っており、この数字は実態を反映していないとみられている。
 北京市民の間では、感染は珍しいものではなくなり、知人に複数の陽性者や体調不良者がいる状態が一般的となっている。既に中国各地で医療逼迫(ひっぱく)が起きているとの指摘もあり、インターネット交流サイト(SNS)には、発熱外来の外に長蛇の列ができている様子や、病院の床に横たわる患者の写真が投稿されている。職員に複数の感染者が出たことで、通常業務が困難となる企業や商店も増えている。
 中国政府は国民の不安解消に追われており、オミクロン株の死亡率が低い点を強調。官製メディアは「感染者の99%は7~10日以内に回復する」との専門家の見立てを伝えている。ワクチン接種も促しているものの、中国では世界で普及している米ファイザー社製のワクチンなどは承認されておらず、効果が低いとされる国産ワクチンしか選択肢がない。
 中国共産党は過去3年近く、ゼロコロナ政策や「体制の優位性」を訴えるため、諸外国のコロナ禍での混乱やウイルスの脅威を誇張してきた。国民の間では、過度なコロナ規制への不満が渦巻いていた半面、感染への恐れも根強い。北京では、飲食店などの規制が緩和された後も出歩く人の姿は少なく、中心街は閑散としている。 (C)時事通信社