シスプラチンは各種のがんの治療に用いられるプラチナ系抗がん薬だが、腎毒性および化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の重篤な副作用が投与例の約3分の1に見られるため、抗腫瘍効果を維持しつつこれらの副作用を軽減することが臨床上の大きな課題となっている。フランス・University of LilleのEdmone Dewaeles氏らは、パーキンソン病治療薬のアデノシンA2A受容体拮抗薬イストラデフィリンがシスプラチンによる腎毒性および末梢神経障害性疼痛を軽減し、さらに同薬の抗腫瘍効果を増強することがマウスを用いた実験で示されたと J Clin Invest2022; 132: e152924)に発表した。

A2A受容体拮抗作用で腎毒性と疼痛過敏症を軽減

 Dewaeles氏らはまず、シスプラチンの急性投与(10mg/kg単回投与)および亜慢性投与(3mg/kgで6日間投与)を行ったマウスに発現した腎機能障害を観察。その結果、シスプラチンによるA2A受容体のアップレギュレーション促進が認められ、A2A受容体の調節異常がシスプラチン誘発性腎毒性に関連している可能性が示唆された。

 次に、これらのマウスにイストラデフィリンを投与して腎障害マーカーの変化を観察した結果、血中尿素窒素(BUN:急性投与マウス-42.9±7.4%、亜慢性投与マウス-70.2±5.1%)、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL:同-55.5±5.9%、-82.9±1.4%)、腎損傷分子(KIM-1:同-95.2±0.7%、-79.5±3.8%)の有意な減少が認められ、イストラデフィリンがシスプラチン誘発性腎障害を軽減することが示された。

 さらに、イストラデフィリンはCIPNに関与することが知られている炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1βおよびケモカインCcl2の後根神経節(DRG)におけるアップレギュレーションを逆転させ、シスプラチンによるCIPNにおいて特に問題となる疼痛過敏症を軽減できることが示された。

シスプラチンの腎臓内蓄積を抑制、腫瘍内蓄積は維持

 Lewis肺がん細胞(LLC1)およびヒト肺腺がん細胞(H1975)を用いたin vitroでの検討とLLC1細胞を皮下移植した担がんマウスによる検討では、イストラデフィリンがシスプラチン誘発性腎障害の軽減効果を維持している一方で、シスプラチンの抗腫瘍効果(アポトーシス、DNA損傷、細胞周期に対する作用)は阻害せず、むしろ抗腫瘍効果(特にDNA損傷作用)を高めることが示された。

 その機序について、in vitroでの検討では、イストラデフィリンがシスプラチン投与後のヒト近位尿細管上皮細胞(RPTEC/TERT1)へのプラチナ蓄積を有意に抑制する一方、H1975細胞への蓄積は抑制しないことが判明。イストラデフィリン投与マウスにおいては、シスプラチンの腎臓への蓄積量が減少した一方、腫瘍内への蓄積量は維持されていた。

 また、フローサイトメトリーによる検討では、イストラデフィリン投与によりがん細胞からのシスプラチン流出が有意に減少した一方、RPTEC/TERT1細胞からのシスプラチン流出が大幅に増加していた。

 以上の結果について、Dewaeles氏らは「シスプラチンによる化学療法を受けるがん患者の臨床管理における、副作用予防薬としてのイストラデフィリンの有用性を支持するものだ」と結論している。

(太田敦子)