産後1カ月程度で症状が現れる産後うつ病(PPD)。妊娠から出産における心身や環境の変化などによる代謝産物(メタボローム)の変動との関連が指摘されている。東北大学の兪志前氏らは、妊娠中後期および産後1カ月におけるメタボロームの変動を解析。産後うつ病の危険因子を検出し、予測アルゴリズムの構築および検証を行った。結果をiScience10.1016/j.isci.2022.105666)に報告した。

170個のメタボロームを網羅的に解析

 2020年時点で国内では14.3%の母親が産後うつ状態にあるとされる。「放置すれば重症化を招き、幼児虐待や自殺などにつながりかねない」と兪氏ら。またPPDでは、妊娠から出産において生活習慣や環境、心身状態などが変化し、さまざまなメタボロームの変動が生じていると指摘されている。

 そこで同氏らは、東北メディカル・メガバンク機構による三世代コホート調査に参加した妊産婦の妊娠中後期および産後1カ月時における血漿サンプルについてガスクロマトグラフィー質量分析を行い、170個のメタボロームを網羅的に解析した。

 対象は、エジンバラ産後うつ病質問スコア(EPDS)9点以上のPPD群(250例)と、PPD群に年齢、妊娠週数をマッチさせた同スコア2点以下の対照群(250例)。平均年齢(PPD群31.46歳、対照群30.89歳)は同等であった一方、産後1カ月時の平均EPDS(同12.50点、1.26点)、喫煙状況(妊娠中:同5.77%、0.14%、妊娠前:同49.04%、33.33%、非喫煙:同45.19%、65.32%)などで有意差が認められた。

2個のメタボロームがPPDの危険因子に

 解析の結果、妊娠中に比べ産後1カ月時のメタボロームの変動は、PPD群では121個の増加および10個の減少だったのに対し、対照群では131個の増加および3個の減少が示され、PPDの有無にかかわらず産後はメタボロームの有意な増加が確認された。また、両群における妊娠中後期と産後1カ月時の血漿メタボロームを比較したところ、対照群に比べPPD群では37個のメタボロームが全く異なる変動を示していた。これら37個のメタボロームには、エネルギー産生に関わるクエン酸回路(citrate cycle)と関連するメタボロームが多く含まれていることなども分かった。

 さらに、これら37個のメタボロームを用いて、機械学習および多変量解析により産後うつ症状の予測アルゴリズムを構築したところ、シトシンおよびエリトルロースが確認された。妊娠中のシトシンおよびエリトルロースについて、BMI、年齢、喫煙状況などを補正し両群で比較した結果、PPD群でシトシンが低く、エリトルロースがそれぞれ有意に高かった(順にP=0.031、P=0.012)。

 以上から、兪氏らは「妊娠中後期に比べ産後1カ月では、産後うつ症状の有無にかかわらず血漿メタボロームが上昇しており、産後うつ症状に関連して血漿中のクエン酸回路の代謝異常が認められた。さらに、産後うつ症状を機械学習により予測し、シトシンの減少とエリトルロースの増加が危険因子として同定された」と結論。「妊産婦の個体差に応じたPPDの予防やケアに役立つ」との見解を示している。

編集部