シンガポール・Yong Loo Lin School of Medicine, National University of SingaporeのCalesta Hui Yi Teo氏らは、糖尿病の合併症の1つである糖尿病性角膜神経障害(DCN)に対するフェノフィブラートの有効性を検討するため、2型糖尿病患者30例を対象に単群非盲検試験を実施した。その結果、フェノフィブラート投与30日後には患者の角膜神経再生が有意に促進され、神経浮腫が減少したとDiabetes(2022年11月29日オンライン版)に報告した。
糖尿病患者の5、6割がDCNと推定
DCNやその結果として生じる糖尿病性角膜症は、糖尿病患者の約47〜64%が罹患していると推定されている(J Clin Med 2020; 9: 3956)。角膜穿孔や視力低下などのリスクがあるが、主な治療法は抗生物質の予防投与などの対症療法に限られている。
フェノフィブラートは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)αアゴニストであり、脂質異常症治療薬として用いられる。高脂血症やHDLコレステロールの減少は末梢神経障害の重大な危険因子であるため、フェノフィブラートは神経障害に対して有効であると考えられる。
そこでTeo氏らは、DCNに対するフェノフィブラートの有効性を評価するため単群非盲検試験を実施した。
対象は、2020年10月〜21年10月に募集した2型糖尿病患者30例(平均年齢60.8±9.3歳、男性80.8%)。年齢をマッチングした健常者20例を対照とした。患者は、2型糖尿病を3カ月以上罹患している軽度〜中等度〔クレアチニンクリアランス(Ccr)30~60mL/分および、またはアルブミン尿と定義〕の糖尿病性腎症の成人(21歳以上)で、HbA1cが9%未満かつ過去3カ月に脂質およびグルコースを低下させる薬剤の服用量に大幅な変化がないことを条件とした。重度の腎障害患者(Ccr 30mL/分未満)、腎代替療法を受けている患者、糖尿病に関連しない腎糸球体疾患、慢性肝疾患、著しいアルコール摂取がある患者などは除外した。
患者30例のうち、9例(Ccr 60mL/分超)には300mg/日、21例(Ccr 30~59mL/分)には100mg/日、フェノフィブラートを30日間経口投与し、眼表面評価、角膜神経叢と上皮細胞のin vivo共焦点顕微鏡(IVCM)スキャン、涙液に関わる神経伝達物質の解析、プロテオーム解析を投与前後で実施した。
投与前後の目のデータおよび投与前の対照群と患者群のデータの解析や、神経伝達物質と神経プロファイルの関連性の評価には線形混合モデル(LMM)を使用。統計解析にはSTATA(STATACorp、College Station、TX、USA)を用いた。
角膜神経線維密度は対照群と同等に回復、浮腫も軽減
解析の結果、フェノフィブラート投与30日後に患者群では角膜神経指標の改善が認められた。IVCMでは、対照群と比べ投与前の患者群では角膜神経線維密度(CNFD)と角膜神経線維長(CNFL)が有意に低く(P=0.04、P=0.03)、角膜神経線維幅(CNFW)が有意に高かったが(P=0.03)、投与後における患者群のCNFDは、投与前の9.5±6.2fibers/mm2から12.6±4.4fibers/mm2へと有意に増加し(P=0.01)、対照群(12.3±6.0fibers/mm2)と同等に回復した。CNFWも有意に減少し(P=0.01)、浮腫が軽減したことが示唆された。
角膜上皮細胞の円形度は投与前後で0.73±0.02から0.72±0.02に減少し、有意に改善した(P=0.04)。
臨床検査では点状角膜症の軽減が認められ、涙液の分解時間が長くなることで眼表面の状態が有意に改善した。また、投与後に涙液のサブスタンスP(SP)濃度は1,239.4±719.2pg/mLから1,669.0±948.4pg/mLに有意に増加し(P=0.03)、眼表面神経の炎症の改善が示唆された。涙液のSP濃度の変化は、CNFDの改善と有意に関連していた(P=0.013)。
定量的プロテオーム解析の結果、フェノフィブラートはニューロトロフィンシグナル伝達経路、リノレン酸、コレステロール、脂質代謝を有意にアップレギュレートし、調節することが示された。一方、補体カスケード、好中球反応、血小板活性化はフェノフィブラートにより有意に抑制された。
今回の結果について、Teo氏らは「フェノフィブラートがDCNの眼表面の健全性を改善することを証明した。さらに、神経栄養学的反応、脂質調節、抗炎症および抗凝固反応がフェノフィブラートの神経保護効果に寄与している可能性が示唆された。DCNに対する新規治療法としてフェノフィブラートを支持するものである」と述べている。
(今手麻衣)