市立秋田総合病院精神科医長の川北雄太氏らは、クロザピンを服用した統合失調症患者とそれ以外の抗精神病薬を服用した患者の虫垂炎発症率を後ろ向きに検討。虫垂炎発症率はクロザピン服用群で有意に高かったとBMC Psychiatry(2022; 22: 653)に報告した。
治療抵抗性統合失調症に唯一有効も、新たな副作用の懸念
クロザピンは治療抵抗性統合失調症への有効性が認められている唯一の抗精神病薬だが、無顆粒球症や心筋炎などの副作用が知られており、定期的な血液検査が必要とされている。最近では、単一施設による統合失調症患者の後ろ向き観察研究において、既報以外のクロザピンによる副作用として虫垂炎発症率が高いことが報告されている(J Clin Psychiatry 2021; 82: 20cr13841)。
そこで川北氏らは今回、クロザピン服用と虫垂炎発症の関連を検証し、統合失調症患者における虫垂炎発症の危険因子を特定するため、クロザピン服用歴のある患者と、服用歴のない患者における虫垂炎の発症率および累積発症率を後ろ向きに検討した。
対象は2009年6月~21年8月に秋田大学病院精神科を受診した統合失調症患者で、クロザピン服用歴のある患者65例(クロザピン群:男性32.3%、クロザピン投与開始時の平均罹病機関9.3年、平均投与期間41.5カ月)、ない患者400例(非クロザピン群)。同大学病院受診前に①虫垂切除歴がある、②他院でクロザピン服用歴がある、③統合失調症の影響で病歴に関する記述が疑わしく、頼れる親戚がいないー患者は除外した。
クロザピン服用期間の虫垂炎発症率は10万人・年当たり2,086例
検討の結果、虫垂炎の発症数は非クロザピン群に比較してクロザピン群で有意に多かった〔5例(1.3%)vs. 5例(7.7%)、P=0.007)〕。観察期間中における10万人・年当たりの発症率はクロザピン群で863例、非クロザピン群で124例であった。クロザピンの服用期間に限定すると虫垂炎発症率は10万人・年当たり2,086例(服用期間16.7カ月)と高率だった。
カプランマイヤー曲線による、統合失調症治療開始から約30年後の累積発症率は非クロザピン群が7.5%、クロザピン群が9.4%と、クロザピン群で有意に高かった(図、P=0.004)。
図. 両群の初診時からの虫垂炎の累積発症率
(BMC Psychiatry 2022; 22: 653)
さらに多変量解析により、クロザピン服用が虫垂炎の発症に寄与する独立した因子であることが示された(オッズ比6.458、95%CI 1.674~24.915、P=0.007)。
以上の結果から川北氏らは、「クロザピンが統合失調症患者の虫垂炎発症リスクを高めることが示唆された」と結論。今後の展望について「さらなる研究で、クロザピンによる虫垂炎発症の機序の解明や虫垂炎を発症しやすい患者背景の同定、発症予防策の開発が望まれる」と付言した。
(編集部)