経口抗ウイルス薬ニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッド)を投与された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の一部において、PCR検査でウイルス陰性となった後に再び陽性となる"リバウンド現象"が見られることが報告されている。中国・Chinese University of Hong KongのGrace L-H.Wong氏らは、香港の成人COVID-19患者1万2,000例超を対象にニルマトレルビル/リトナビルおよびモルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)の投与例におけるリバウンド(再陽性)の発生率について検討。その結果、投与例と非投与例のいずれでもリバウンド発生率は1%以下と極めて低く、リバウンドによる死亡リスクの上昇は認められなかったと JAMA Netw Open(2022; 5: e2245086)に発表した。
投与例と非投与例で発生率に有意差なし
Wong氏らは、香港の医療データベースClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)から、オミクロン株が優勢だった2022年1月1日~3月31日にCOVID-19で入院し、連続3回以上のPCR検査でサイクル閾値(Ct値)を測定した18歳以上の患者1万2,629例(平均年齢65.4歳、男性52.5%)を抽出し解析対象とした。内訳は、経口抗ウイルス薬を投与されなかった患者が1万1,688例(92.5%)、モルヌピラビル投与が746例(5.9%)、ニルマトレルビル/リトナビル投与が195例(1.5%)だった。
主要評価項目はリバウンドの発生とし、Ct値が40を超えた後に40以下となった場合をリバウンドと定義した。
ベースラインのCt値は、経口抗ウイルス薬の非投与群(平均21.0、標準偏差5.4)およびモルヌピラビル群(同20.9、5.4)と比べ、ニルマトレルビル/リトナビル群(同22.2、6.0)でわずかだが有意に高かった(P=0.04)。
対象を平均28.5日間追跡した結果、リバウンドの発生率は非投与群で0.6%(68例)、モルヌピラビル群で0.8%(6例)、ニルマトレルビル/リトナビル群で1.0%(2例)で、有意な群間差はなかった(P=0.56)。リバウンドの大半は投与終了後2~5日目に発生していた。
一方、経口抗ウイルス薬の非投与群と比べ投与群は高齢で(非投与群64.5歳、モルヌピラビル群78.1歳、ニルマトレルビル/リトナビル群75.7歳)、併存疾患が多く、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの完全接種率が低かった(それぞれ40.0%、31.5%、35.6%)。さらに、薬剤別の患者背景の違いを見ると、モルヌピラビル群はニルマトレルビル/リトナビル群と比べ高齢で併存疾患が多かった。同氏らは「高齢および併存疾患といったCOVID-19の重症化危険因子とリバウンドのリスク上昇に関連は認められなかった。モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビル投与後のリバウンド発生率はそれぞれ0.8%、1.0%とまれだった」との見解を示している。
リバウンドによる死亡リスク上昇認められず
副次評価項目の解析では、Ct値36をカットオフ値としたリバウンド(Ct値36超に上昇後36以下に低下)の発生率を検討したところ、非投与群で4.4%(509例)、ニルマトレルビル/リトナビル群で4.6%(9例)、モルヌピラビル群で4.6%(34例)と有意な差はなかった(P=0.95)。
リバウンド例におけるCOVID-19による死亡は、非投与群で68例中12例、モルヌピラビル群で6例中1例、ニルマトレルビル/リトナビル群では報告はなかった。
経口抗ウイルス薬の非投与群における致死率(case fatality rate;CFR)は、非リバウンド例(9.8%、95%CI 9.3~10.3%)と比べリバウンド例(同17.6%、10.6~29.4%)で高かった。一方、投与群におけるCFRは非リバウンド例(同12.6%、10.7~15.0%)とリバウンド例(同12.5%、2.0~78.5%)で差が見られなかった。
これらの知見を踏まえ、Wong氏らは「成人COVID-19患者におけるリバウンドの発生率は、経口抗ウイルス薬の非投与例、モルヌピラビル投与例、ニルマトレルビル/リトナビル投与例のいずれでも極めて低く、投与例においてもリバウンドによる死亡リスクの上昇は認められなかった」と結論。「これらの結果に鑑みて、感染の初期段階にあるCOVID-19患者の治療として、両薬の投与をもっと検討すべき」としている。
(太田敦子)