ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)の使用が、レビー小体型認知症 (DLB)患者における死亡率の低下や併存疾患による緊急入院の期間短縮に関連する可能性が、大規模な後ろ向きコホート研究から示された。英・University of CambridgeのShanquan Chen氏らがPLoS Med( 2022; 19: e1004124)に発表した。今回の結果について、同氏らは「AChEIの使用はDLBの死亡率を上昇させる」という従来の懸念を払拭するもので、DLBの治療選択肢としてAChEIが妥当であることを裏付ける知見だとしている。
英国86万人の電子カルテデータベースなどを分析
アルツハイマー病(AD)と比べDLBは死亡率が高いことが報告されている。また、DLB患者は身体的および精神的な症状が複雑で、入院率の上昇や入院の長期化と関連することも知られている。DLBは根治療法がなく、病理学的および臨床的に他の病型とは異なるが、AChEIやメマンチンなどの抗認知症薬がDLB患者の症状や転帰の改善をもたらす可能性が指摘されている。そこでChen氏らは今回、DLB患者を対象にAChEIの使用と死亡率、入院期間、身体疾患および精神疾患による入院(事前に計画された入院/緊急入院)との関連を調査する後ろ向きコホート研究を実施した。
研究には約86万人をカバーする英国保健サービス(NHS)傘下のCambridgeshire and Peterborough NHS Foundation Trust(CPFT)の電子カルテデータと全国の病院エピソード統計(HES)のデータベースを使用。両者をリンクさせ、2005年1月~19年12月までにDLBと診断され、3カ月以上の追跡可能だった592例を同定した。
治療薬の内約は、273例がAChEI(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)とメマンチンを併用、100例がAChEI単独、219例はいずれも使用していなかった。非使用群で社会経済的地位が低かったことを除き、ベースライン時の患者背景に群間差は認められなかった。平均追跡期間は、AChEI+メマンチン併用群が1,004日、AChEI単独群が981日、非使用群が896日だった。
メマンチンの有無にかかわらず、AChEI使用は死亡リスク低下と関連
年齢や性、婚姻状況、民族、社会経済的地位といった社会人口学的因子、抗精神病薬や抗うつ薬の使用、認知機能、身体的な併存疾患、抗コリン薬による薬剤負担、グローバルヘルス・パフォーマンスなどの交絡因子を調整し、Cox比例ハザードモデルおよび線形回帰モデルを用いて解析。その結果、非使用群に対しAChEI単独群とメマンチン併用群では、死亡リスクが有意に低下した〔順に調整後ハザード比(aHR)0.67、95%CI 0.48~0.93、P=0.02、同0.64、0.5~0.83、P=0.001)。また、非使用群に対しAChEI単独群とメマンチン併用群では身体疾患による緊急入院の期間が有意に短かった(順にP=0.049、P=0.007)。
一方で、事前に計画された身体疾患および精神障害による入院期間は3群間で有意差はなかった。メマンチンの使用と死亡率、入院期間、身体疾患および精神障害による入院期間との関連は認められなかった。
Chen氏らは「今回の研究では交絡因子を完全に排除することが難しく、非ランダムに処方された臨床データを用いたため、選択バイアスの存在を否定できない」と限界を指摘。その上で、臨床試験のintention-to-treat解析を模倣していること、ベースライン時における患者背景は3群間でバランスが取れていたこと、さらに一連の感度分析の結果を踏まえ、AChEI使用によるDLB患者の死亡率低下について、「一貫性のある結果が確認された」と研究の意義を強調している。
(小谷明美)