スタチンが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防に有用な可能性が示された。オランダ・Erasmus University Medical Center RotterdamのIbrahim Ayada氏らが、同国のRotterdam Study住民コホートと中国のNAFLD患者集団PERSONSコホートの解析を含む多面的な研究を行い、NAFLD患者におけるスタチンの有益性と作用機序を包括的に検討した結果を E BioMedicine2023; 87: 104392)に発表。「スタチンの適応になるにもかかわらず、NAFLD患者の40~50%は同薬で治療されていない。NAFLDの疾患管理で考慮すべき」としている。

2件のコホート解析に6研究を加えてメタ解析

 解析対象は、オランダで進行中の大規模前向き住民コホート研究であるロッテルダム研究の2009~14年の参加者4,576例(年齢69.9±9.2歳、男性41.0%、BMI 27.6±4.3)と、2016~19年に中国・First Affiliated Hospital of Wenzhou Medical Universityで肝生検によりNAFLDと確定診断された患者集団であるPERSONSコホートの569例(同42.3±12.3歳、72.2%、26.6±3.3)。

 さらに、医学データベースMEDLINE、EMBASE、Web of ScienceからスタチンとNAFLD、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)または肝線維化との関連を検討した6件の研究を抽出し、ロッテルダム研究およびPERSONSコホートの解析結果と合わせてメタ解析を行った。

スタチンがNAFLD/NASHと逆相関、肝線維化とは相関せず

 ロッテルダム研究の解析ではスタチンとNAFLDとの間に逆相関が認められ、未治療の脂質異常症群との比較においてスタチン投与群でNAFLDリスク低下との有意な関連が示された〔調整後オッズ比(OR)0.72、95%CI 0.59~0.86、P<0.001〕。ただし、NAFLDのリスクが最も低かったのはスタチン非投与の非脂質異常症群だった(同0.50、0.42~0.60、P<0.001)。

 一方、スタチンと肝線維化(肝硬度8.0kPa以上)との間には有意な相関がなかった(調整後OR 0.65、95%CI 0.40~1.07、P=0.096)。ただし、肝線維化を肝硬度7.0kPa以上と定義した感度解析では、スタチン投与と肝線維化減少の有意な関連が認められた(同0.54、0.36~0.82、P=0.004)。

 PERSONSコホートの解析では、スタチン投与はNASHと有意な逆相関が認められたが(調整後OR 0.55、95%CI 0.32~0.95、P=0.031)、肝線維化との有意な相関はなかった(同0.86、0.44~1.68、P=0.857)。

 NAFLD、NASH、肝線維化に関連する7件の研究を対象としたメタ解析では、代謝機能障害を有する者において、スタチンはNAFLDとは有意でないものの逆相関傾向が認められ(プールした調整後OR 0.69、95%CI 0.46~1.01)、NASH(同0.59、0.44~0.79)および肝線維化(同0.48、0.33~0.70)とは有意な逆相関が認められた。

肝保護に脂質低下、抗炎症作用が関与の可能性

 さらにin vitroでの検討では、脂質異常症治療薬のシンバスタチンおよびロバスタチン投与により三次元培養したヒト肝臓オルガノイドの脂肪肝モデルにおける脂肪滴の蓄積が有意に抑制され、ヒト単球性白血病細胞(THP-1)マクロファージにおける炎症誘発性サイトカイン〔インターフェロン(IL)-6、IL-12、IL-γなど〕の発現量を有意に減少させることが確認された。これらの結果について、Ayada氏らは「スタチンによる炎症性遺伝子の発現の減少は、同薬の肝保護効果が部分的に寄与している可能性がある」と考察している。

 以上の結果を踏まえ、同氏らは「スタチンはNASHおよび肝線維化のリスクを有意に低減し、代謝機能障害を有する者においてNAFLDを予防する可能性が示された。これらの効果の一部は、スタチンの脂質低下作用および抗炎症作用に起因すると考えられる」と結論。「現在、NAFLD患者の40~50%はスタチンの適応がありながら同薬を処方されていない。最新のガイドラインに従って適切にスタチンを処方することにより、NAFLDの疾病負担が軽減される可能性がある」と付言している。

(太田敦子)