ファイザー製の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(トジナメラン)の接種に伴い、突発性感音難聴(SSNHL)の発生が増加することが、イスラエルで行われた大規模なコホート研究(関連記事「ファイザー製ワクチンと突発性難聴が関連」)で示されている。ただし、交絡因子の関与の可能性が否定できないことから、フィンランド・Finnish Institute for Health and WelfareのTuomo A. Nieminen氏らは、同国の住民550万人を対象に、既往症などの潜在的な交絡因子を追加的に考慮した解析を実施。同ワクチンだけでなく、アストラゼネカ製(バキスゼブリア)およびモデルナ製(スパイクバックス)のワクチンもSSNHLと関連しなかったことをJAMA Otolaryngo Head & Neck Surg2022年12月15日オンライン版)に報告した。

年齢、性以外の多くの因子で調整

 Nieminen氏らは、フィンランドの全国的な登録データを用いて住民550万人の後ろ向きコホート研究を行い、COVID-19ワクチン接種とSSNHLとの関連を評価した。調査対象期間は2019年1月1日〜22年4月20日だった。

 一次リスク期間(ワクチン接種から54日目まで)と二次リスク期間(55日目から次の接種まで)のSSNHLの発生率をCOVID-19の流行前と比較した。

 解析は、暦年、年齢、性、糖尿病、心血管疾患、その他の慢性疾患、プライマリケア医での受診回数を調整し、ポワソン回帰モデルを用いて行った。

粗発生率は流行期で低く、ワクチン接種により下降

 COVID-19流行以前(2019年1月1日〜20年3月1日)には、追跡期間650万人・年に1,216人がSSNHLを発症し、粗発生率は人口10万人・年当たり18.7人(95%CI 17.7〜19.8)であった。

 2020年3月のCOVID-19流行開始後にSSNHLの発生率は急激に低下し、その後は2020年末までに流行前の水準へと緩徐に増加した。この期間のSSNHL粗発生率は10万人・年当たり15.7人(95%CI 14.5〜16.8)と流行前よりも低かった。2021年初頭にCOVID-19ワクチン接種が開始されるとまもなく、開始前に上昇していた粗発生率が下降に転じた。これは、フィンランドでのワクチン接種キャンペーンと関連する可能性が示唆された。

3種のワクチンいずれもリスク増加せず

 ワクチン接種集団では、SSNHL発生率にワクチン接種と関連する時間的なパターンは見られず、一次リスク期間における発生率は、接種前の30日間および一次リスク期間後と同程度であった。

 一次リスク期間におけるトジナメラン接種後のSSNHLの粗発生率は、1回目接種後が10万人・年当たり21.2人(95%CI 17.5〜25.6)、2回目接種後が同19.4人(15.8〜23.5)、3回目接種後は同25.2人(19.9〜31.4)だった。調整済み発生率比(aIRR)は、それぞれ0.8(95%CI 0.6〜1.0)、0.8(同0.6〜1.2)、1.0(同0.7〜1.4)であり、いずれもSSNHLリスクは増加していないことが示された。

 同様に、スパイクバックス接種後の一次リスク期間におけるaIRRは、1回目接種後が0.8(95%CI 0.5〜1.4)、2回目接種後が1.2(同 0.7〜1.9)、3回目接種後が1.1(同 0.7〜1.8)、バキスゼブリアではそれぞれ0.4(同 0.2〜0.8)、0.6(同 0.3〜1.4)とSSNHLのリスク増加は認められなかった(3回目接種のデータなし)。

 Nieminen氏らは、「基礎疾患や受診行動の個人差の他、ワクチン接種とは無関係のSSNHL発生の経時的変化も調整して解析を行った結果、COVID-19ワクチン接種とSSNHL発症との関連は認められなかった」と結論。「突発性難聴をより客観的に診断して、この研究の結果を検証するためには、より詳細な臨床データを用いた研究が必要であろう」と結んでいる。

(菅野 守)