生活習慣の是正により、炎症性腸疾患の発症を最大で約60%予防できる可能性が、米・Massachusetts General HospitalのEmily W. Lopes氏らによる観察研究で示された。定期的な運動、野菜や魚が多く、赤肉が少ない食事などの健康的な生活習慣で、追跡期間中に確認されたクローン病症例の61.1%、潰瘍性大腸炎症例の42.2%が予防可能であったとの解析結果をGut(2022年12月6日オンライン版)に発表した。
米国の大規模コホート研究3件のデータを解析
これまで、炎症性腸疾患には複数の生活習慣因子が関連していることが指摘されていたが、健康的な生活習慣の遵守により発症リスクがどの程度低下するかについては不明だった。Lopes氏らは今回、生活習慣因子の是正によって予防可能なクローン病および潰瘍性大腸炎の割合を推定するため、米国の大規模コホート研究3件〔Nurses' Health Study(NHS)、NHS Ⅱ、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)〕の参加者(それぞれ7万2,290例、9万3,909例、4万1,871例)のデータを解析した。
クローン病と潰瘍性大腸炎についてそれぞれ、確立された危険因子に基づき修正可能リスクスコア(modifiable risk scores;MRS、0~6点)を作成し、米国の健康的な生活習慣の推奨事項に基づき健康的な生活習慣評価スコア(healthy lifestyle scores;HLS、0~9点)も作成。低リスク群(クローン病:MRS 1点以下、潰瘍性大腸炎:MRS 2点以下、HLS 7点以上)と高リスク群でクローン病および潰瘍性大腸炎の発症率を比較し、人口寄与危険度を算出した。
HLSを構成する因子は、①BMI 18.5~25、②喫煙歴なし、③7.5METs・時/週以上の運動、④1日当たりの摂取量が果物および野菜8サービング以上、赤肉0.5サービング未満、食物繊維25g以上、魚の摂取量が週2サービング以上、ナッツ類および種子類0.5サービング以上、1日当たりのアルコール摂取量が女性で1ドリンク未満、男性で2ドリンク未満―とした。
511万7,021年・人の追跡期間中(NHS・HPFS:1986~2016年、NHS Ⅱ:1991~2017年)にクローン病を346例が発症し、潰瘍性大腸炎を456例が発症した。
解析の結果、MRSの低スコアを維持することで、クローン病の42.9%(95%CI 12.2~66.1)、潰瘍性大腸炎の44.4%(同9.0~69.8)が予防できたと推定された。同様に、HLSの遵守によりクローン病の61.1%(同16.8~84.9)、潰瘍性大腸炎の42.2%(同1.7~70.9)が予防可能だったと推定された。
欧州の大規模コホート研究3件でも同様の結果を確認
次に、得られた結果を欧州のコホート研究3件(Swedish Mammography Cohort:3万7,275例、Cohort of Swedish Men:4万810例、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition:40万4,144例)で検証した。同様に人口寄与リスクを算出した結果、MRSの低スコアを維持することでクローン病の43.9~51.2%、潰瘍性大腸炎の20.6~27.8%が予防可能であり、HLSの遵守によりそれぞれ48.8~60.4%、46.8~56.3%が予防可能だったと推定された。
Lopes氏らは「欧米の大規模コホート6件の解析から、生活習慣の是正で炎症性腸疾患のかなり大きな割合を予防できる可能性が示された」と結論。その上で、「特に家族に炎症性腸疾患患者がいる高リスク者において、生活習慣の是正が予防に寄与する可能性がある」と付言している。
(岬りり子)