ORAL Surveillance試験では、関節リウマチ(RA)治療において、ヤヌスキナーゼ阻害薬トファシチニブは腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬と比べ、悪性腫瘍のリスクが高いことが示されている。米・University of Alabama at BirminghamのJeffrey R. Curtis氏らは、同試験の一環として、RA患者における悪性腫瘍の発生状況を調査し、ベースライン時の危険因子および心血管リスクスコアとの関連を両薬剤で比較した。その結果、悪性腫瘍の発生リスクはトファシチニブ群で高く、動脈硬化性心血管疾患の既往歴(HxASCVD)を有する患者や心血管リスクが上昇している患者で悪性腫瘍の発生率が高かったと、Ann Rheum Dis(2022年12月5日オンライン版)で報告した。
中等症~重症RAの第Ⅲb/Ⅳ相試験
同試験は、市販後安全性臨床試験として実施された第Ⅲb/Ⅳ相非盲検ランダム化比較試験。解析対象は、年齢50歳以上で少なくとも1つの心血管リスク因子を有する中等症~重症のRA患者4,362例〔平均年齢 61.2(SD 7.1)歳、女性 78.2%〕。
これらを、トファシチニブ5mg(1日2回、経口)を投与する1,455例、同10mg(同)を投与する1,456例、TNFα阻害薬(北米:アダリムマブ40mgを2週に1回、北米以外:エタネルセプト50mgを毎週1回、いずれも皮下投与)を投与する1,451例にランダムに割り付けた。
トファシチニブ10mg群の肺がんリスクはTNFα阻害薬群の2.5倍
解析の結果、悪性黒色腫以外の皮膚がん(NMSC:基底細胞がん、有棘細胞がん)を除く悪性腫瘍の発生率(IR:100人・年当たりの初発例数)は、TNFα阻害薬群の0.77に対し、全トファシチニブ群で1.13(HR 1.48、95%CI 1.04~2.09)、トファシチニブ5mg群で1.13(同1.47、1.00~2.18)、10mg群で1.13(同1.48、1.00~2.19)といずれも高かった。
また、NMSCのIRは、TNFα阻害薬群の0.32に対し、全トファシチニブ群で0.64(HR 2.02、95%CI 1.17~3.50)、トファシチニブ5mg群で0.61(同1.90、1.04~3.47)、10mg群で0.69(同2.16、1.19~3.92)といずれも高かった。
NMSCを除く悪性腫瘍のうち、最も多かったのは肺がん(37例)だった。肺がんのリスクは、TNFα阻害薬群に比べトファシチニブ10mg群で高かった(HR 2.50、95%CI 1.04〜6.02)。
18カ月以降にリスクの差
TNFα阻害薬群に対する全トファシチニブ群のNMSCを除く悪性腫瘍のリスクは、18カ月までは同等に推移したが(HR 0.93、95%CI 0.53〜1.62)、18カ月以降に上昇した(同1.93、1.22〜3.06、交互作用のP=0.0469)。
Cox回帰分析の結果、ベースライン時におけるNMSCを除く悪性腫瘍の危険因子として、加齢(5年)(HR 1.31、95%CI 1.18~1.46、P<0.0001)、現喫煙(同2.28、1.55~3.36、P<0.0001)、過去の喫煙歴(同2.04、1.38~3.03、P=0.0004)、慢性肺疾患(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患)の既往(P=0.0478)などが抽出された。
HxASCVDを有する患者では、TNFα阻害薬群に比べトファシチニブ群で、NMSCを除く悪性腫瘍、肺がん、NMSCのIRが高かった。HxASCVDを有さない患者では、全治療群で、ベースライン時のASCVDリスクスコアが低値の者に比べ高値の者でNMSCを除く悪性腫瘍、肺がん、NMSCのIRが高かった。
Curtis氏らは、今回の結果について「要因として、心血管疾患とがんの危険因子が共通している可能性が考えられる」と考察。さらに「これらの知見は、トファシチニブのリスク・ベネフィットの評価に有用であり、心血管リスクの高いRA患者における治療方針を決定する際に、有益な判断材料となる可能性がある」と付言している。
(菅野守)