治療抵抗性うつ(TRD)の患者は非TRD患者に比べ死亡リスクが23%高いことが示された。スウェーデン・Karolinska InstitutetのJohan Lundberg氏らは、ストックホルムうつ病コホート研究のデータを用いて検討した結果を、JAMA Psychiatry2022年12月14日オンライン版)に報告した。

うつ病15万8,169件中TRDは1万2,793件

 うつ病は機能障害の主な原因で、抗うつ薬や心理療法が標準療法となっている。多くの患者は数カ月~数年の治療で寛解するが、中には治療を行っても症状が軽減しないTRDが存在する。Lundberg氏らは、TRDが個人の生活や社会にどの程度影響し、うつ病エピソード(気分の落ち込みやその他のうつ病症状が2週間以上続く)の発生にどの程度関与しているかを検討した。

 同氏らは、2010~17年にストックホルム地域で18歳以上の患者に発生した全てのうつ病エピソードを登録したストックホルムうつ病コホート研究データから、TRDエピソードを抽出。TRDエピソード1件に対し年齢、性、うつ病エピソードの回数、社会経済状況をマッチングさせた非TRDエピソード5件を選出し、併存症、抗うつ治療、全死亡などについて比較、検討した。TRDは連続する3回以上の抗うつ治療〔抗うつ薬、アドオン療法、電気痙攣療法(ECT)、反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)〕に抵抗性を示した場合と定義し、3回目の抗うつ治療を開始した日をindex dateとした。

 検討の結果、2012年1月~17年12月に患者14万5,577例(女性64.7%、年齢中央値42歳)でうつ病エピソードが15万8,169件発生、うちTRDは1万2,793件(患者1万2,765例)。うつ病発症からTRDのindex dateまでの時間は中央値で552日。抗うつ薬として最も多く使用されていたのはセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で、3回目の抗うつ薬治療開始前に5,907例(46.2%)が心理療法を受けていた。

TRD患者は不安、ストレスが顕著

 TRDエピソードを有さない非TRD患者に比べTRD患者では精神的併存症が多く、index dateの1年前から徐々に増加し、特に不安(44.4% vs. 59.8%)とストレス(28.0% vs. 35.8%)で顕著だった。また、TRD患者ではアドオン療法(4.4% vs. 14.4%)、ECT(0.3%vs. 3.4%)、rTMS(34.7% vs. 46.2%)などの抗うつ療法が行われていることが多く、最初のうつ病エピソードを記録した診療科が精神科である割合が高かった(26.5% vs. 60.5%)。

 非TRD患者に対しTRD患者では、睡眠障害(19.4% vs. 27.5%)、物質使用障害(10.6% vs. 15.3%)、人格障害(3.3% vs. 5.6%)、意図的な自傷行為(1.8% vs. 4.9%)が多かった。

外来受診回数、労働損失日数が2倍

 また、TRD患者ではindex dateから1年後の月平均の外来受診回数(5.6回 vs. 9.8回)、入院日数(1.3日 vs.3.9日)、労働損失日数(58.7日 vs. 132.3日)も多かった。

 全死亡率は、非TRD患者が1,000人・年当たり8.7だったのに対し、TRD患者では10.7だった。Cox比例ハザードモデルを用いてTRDと全死亡の関係を見ると、非TRD患者に対しTRD患者では全死亡リスクが23%高かった〔ハザード比(HR)1.23、95%CI 1.07 ~1.41〕。

 TRD発症までの抗うつ薬の組み合わせは587通りあった。1回目の抗うつ治療では60%がSSRIを使用していた。TRD index dateにおいて最も多く使用されていたのは、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)のミルタザピン(12.6%)とノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬(NDRI)のbupropion(12.6%)。次いで選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のエスシタロプラム、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のベンラファキシンの順だった。

 TRD患者がうつ病エピソードの発生から最初の抗うつ治療を開始するまでの期間は中央値で8日、最初の抗うつ治療から2回目開始までの期間は中央値で165日、2回目から3回目開始までの期間は中央値で197日だった。

うつ病重症度でTRD予測が可能

 2015年1月1日~17年12月31日に発生した全てのうつ病エピソード7万3,056件およびTRDエピソード4,313件を基に、TRD発症の予測因子を同定した。その結果、TRDの重要な予測因子として①うつ病診断時の自己申告によるうつ病評価尺度Montgomery Åsberg Depression Rating Scale(MADRS-S)の重症度、②うつ病発症時の精神科受診の有無、③うつ病発症前1年間の外来受診回数、④過去3年間の睡眠障害の診断または鎮痛薬の処方、⑤過去3年間の不安の診断または抗不安薬の処方、⑥性―が抽出され、これら6因子の中でもうつ病診断時のMADRS-Sによるうつ病重症度がTRDの最も重要な予測因子として同定された(C index=0.69)。

 以上から、Lundberg氏は「うつ病の中でもTRD患者は非TRD患者に比べて外来受診が2倍、入院期間が3倍、労働損失日数が2倍、死亡リスクが23%高く、患者自身と社会にとって大きな負担となっていた。TRD患者では2回の抗うつ治療に平均1年半かかっており、現在ガイドラインが推奨する抗うつ療法の効果を評価する期間よりも数カ月長かった」とまとめた。さらに「今回、TRD発症リスクのある患者を最初のうつ病診断時に予測できること、自己評価によるうつ病の重症度が最も重要な予測因子であることが示された。TRD患者自身も苦しんでおり、社会全体への負担も大きいことから、TRD発症リスクのある患者を同定することは有益である」と結論。今回の知見を踏まえて「効果のない治療をより迅速、頻回にTRDに推奨される治療、例えばリチウムなどに変更することが勧められる」と付言した。

(大江 円)