先天的に腸が短い、または後天的な腸の大量切除などにより腸管機能不全に陥る短腸症候群。短腸症候群患者では経腸栄養や中心静脈栄養で栄養管理を行うが、心身の負担や合併症が問題となる。昭和大学薬学部臨床栄養代謝学部門教授で同大学外科学講座小児外科学部門兼担教授の千葉正博氏は、12月14日に東京都で開かれたメディアセミナー(主催=武田薬品工業)で短腸症候群の特徴や治療法について解説。短腸症候群に対する医療費助成にも言及し、成人では一部の原因疾患を除き助成されないという問題点を指摘した。
小腸の残存部分により予後が異なる
短腸症候群の原因は小児と成人で異なり、小児では壊死性腸炎、中腸軸捻転、小腸閉鎖などの先天性腸疾患や外傷などが、成人ではクローン病(CD)、上腸間膜動脈塞栓症、絞扼性イレウス、腹部腫瘍などが挙げられる。
千葉氏によると、短腸症候群に明確な学術的な定義はないものの、国内では「残存小腸が成人で1.5m未満、小児で75cm」を用いることが多いという。
短腸症候群の予後は小腸の残存部分によって異なる。例えば回腸を切除した例では、特にビタミンB12と胆汁酸の消化吸収ができなくなる。通常、脂肪は胆汁によってミセル化し、膵液でさらに分解され吸収されるが、回腸末端切除例では胆汁が再吸収されず、脂肪が糞便として排泄されてしまう。加えて胆汁分泌が低下することで、肝機能障害などの発現リスクが高まる。
切除後に生じる消化管の馴化によって消化吸収の改善が期待されるが、回腸切除例では馴化による効果が得られにくい。
中心静脈栄養管理の長期化で身体的・心理社会的負担が増大
Dudrickらが1968年に開発した中心静脈栄養は、栄養管理に転機をもたらし(Surgery 1968; 64: 134-142)、1975年以降には短腸症候群患者にも導入された。腸管延長術の開発も進み、1980年にBianchiがlongitudinal intestinal lengthening and tailoring(LILT)術を(J Pediatr Surg 1980; 15: 145-151)、2003年にはKimらがserial transverseenteroplasty procedure(STEP)術を報告している(Pediatr Surg 2003; 38: 881-885)。
小腸の維持・再生には腸管内栄養素の補充に加え、グルカゴン様ペプチド(GLP)-2およびインスリン様成長因子(IGF)-1などの消化管ホルモンや、血液を介して関与する上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)などのホルモン分泌が必要となる。うちGLP-2については、分泌を促す組換えヒトGLP-2アナログのテデュグルチドが、昨年(2021年)登場した。
千葉氏は「短腸症候群の保存的治療の基本は、栄養を補充しつつ残存する小腸を十分に働かしホルモン分泌を促すことである」と説明した。しかし中心静脈栄養管理は、長期化すると患者の身体的負担に加え、心理社会的負担が増す。長い静注時間により余暇活動、社会生活や家族生活に支障を来すため、患者は無力感に陥りやすく、体力不足に伴う慢性疲労に苦しむ患者も少なくない。さらに短腸症候群患者特有の腸管不全関連肝障害、カテーテル関連血流感染症の発現リスク増大などの懸念もある。
小児慢性特定疾病に指定も、成人では課題山積
千葉氏は、小腸の機能障害があるにもかかわらず、短腸症候群患者が中心静脈栄養管理から離脱すると、身体障害認定基準から除外されてしまう点にも言及。
また短腸症候群に対する医療費助成制度は、小児と成人で異なる。短腸症候群は小児慢性特定疾病に指定されているが、成人ではCDなど短腸症候群の原因疾患の一部しか指定難病の医療費助成が受けられず、医療ケアの課題が山積している現状を指摘した。
(田上玲子)