抗リン脂質抗体症候群(APS)は自己免疫疾患の1つで、血栓ができやすく、流産や死産リスクが高まるとされる。低分子ヘパリン(+アスピリン)は、女性APS患者の流産リスク低減を目的に使用されるが、遺伝性血栓症の患者にこれら薬剤の流産抑制効果があるかどうかはよく分かっていない。オランダ・Radboud University Medical CenterのSaskia Middeldorp氏は、複数回の流産経験がある遺伝性血栓症の女性患者に対する低分子ヘパリンの流産抑制効果を検証した医師主導第Ⅲ相ランダム化比較試験ALIFE2の結果を第64回米国血液学会(ASH 2022、12月10~13日)で発表。低分子ヘパリンによる流産抑制効果は見られなかったと報告した。
対象は欧米の女性患者326例
今回の対象はオランダ、米国、ベルギー、スロベニア、英国の41施設で登録した、①流産経験が2回以上、②遺伝性血栓症、③最大妊娠期間が7週ーに該当する女性患者326例。標準的な妊娠ケアに加え低分子ヘパリンを静注するヘパリン群(164例)と標準的な妊娠ケア単独の対照群(162例)に1:1でランダムに割り付けた。
主要評価項目は生児出生率。副次評価項目として流産、有害事象、出血イベント、血小板減少症、皮膚反応、先天性奇形を評価した。低分子ヘパリンは、ダルテパリン(5,000IU)、エノキサパリン(40mg)、nadroparin(2,850IU)、tinzaparin(4,500IU)のいずれかを1日1回、出産まで投与した。
ヘパリン群と対照群の主な患者背景は、それぞれ平均年齢が33.5歳、33.3歳、流産回数3回以上が72%、68%、第Ⅴ因子のLeiden突然変異(ヘテロ接合型/ホモ接合型)陽性が58%/3%、55%/0%、プロトロンビン変異(ヘテロ接合型/ホモ接合型)陽性が24%/0%、27%/1%、その他、蛋白欠乏症としてアンチトロンビン欠乏症が1%、3%、プロテインC欠乏症が3%、5%、プロテインS欠乏症が14%、13%などだった。
有害事象の発生リスクはヘパリン群で有意に上昇
解析の結果、主要評価項目の生児出生率は対照群の70.9%に対し、ヘパリン群では71.6%であり、絶対差は0.7%ポイント(95%CI -9.2~10.6%ポイント)と有意差は認められなかった〔調整オッズ比(OR)は1.08、95%CI 0.65~1.78、P=0.770〕。年齢、流産回数、生児出生歴の有無別などで見たサブグループ解析においても、有意な交互作用が認められたものはなかった。
一方、副次評価項目の有害事象の発生率については、対照群が26.5%、ヘパリン群が43.9%で、ヘパリンとの有意な関連が示された(OR 2.17、95%CI 1.32~3.55、P=0.0016)。主なものは、軽度の打撲や注射部位反応、軽度出血などで、大出血や重篤な有害事象で影響したものはなかった。
Middeldorp氏は研究の限界として、対照群のうち30例がクロスオーバーして最終的に低分子ヘパリンを投与され、18例は開始のタイミングとして12週時より前だったこと、生児出生率が他の習慣流産女性を対象とした試験に比べ高かったことなどを挙げた。その上で、「流産経験が複数回ある遺伝性血栓症の女性患者に対する低分子ヘパリンの投与は、生児出生率向上に寄与しなかった。今回の結果に基づくと、流産抑制目的での低分子ヘパリン投与は推奨されないと考えられる」と結論した。
(編集部)