浜松医科大学内科学第二講座の宮下晃一氏らは、厚生労働省が公開しているレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database;NDB)オープンデータを用いて、約94万例の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人患者の大規模データを解析。従来株流行期からデルタ株流行期にかけて患者背景や特性を検討した結果、流行株の移行に伴い患者の若年化が進み、デルタ株流行期には全死亡率が大幅に低下したことが確認された。特に65歳以上の高齢者では顕著な低下が見られた。結果の詳細はEmerg Microbes Infect(2022; 12: e2155250)に発表された。
COVID-19重症化または死亡の危険因子を解析
宮下氏らはNDBオープンデータを用いた全国規模の人口ベース研究を実施し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行初期(従来株流行期)からデルタ株流行期まで、COVID-19患者の臨床像、全死亡率、死亡危険因子の推移を検討した。2020年1月~ 21年8月に診断された成人のCOVID-19患者93万7,758例の匿名化されたデータを抽出し、診断時期を基に患者を従来株流行期 (2020年1月1日~21年4月18日)、アルファ株流行期(2021年4月19日~7月18日)、デルタ株流行期(2021年7月19日~8月31日)に3分類。多変量ロジスティックモデルを用いて、年齢、性、併存症、治療内容、全死亡率を調整し、COVID-19重症化または死亡の危険因子について解析した。
まずCOVID-19の診断時期に基づき、対象を従来株流行期36万5,929例(39.0%)、アルファ株流行期19万6,957例(21.0%)、デルタ株流行期は37万4,872例(40.0%)に分類した。
各ウイルス株流行期におけるCOVID-19患者に若年者(20〜49歳)が占める割合は、従来株流行期が51.1%、アルファ株流行期が56.5%、デルタ株流行期が74.4%と経時的に上昇し、流行初期から23ポイント上昇した。一方で、65歳以上が占める割合は28.9%→22.6%→6.7%と22ポイントの著しい低下が見られた。
また、重症例および死亡例が占める割合は、従来株からデルタ株に移行するにつれて著しく減少。推移を見ると、従来株流行期で4.9%(重症例2.0%、死亡例2.9%)、アルファ株流行期で4.6%(同2.4%、2.2%)、デルタ株流行期で1.4%(同1.0%、0.4%)だった。特に全死亡率の顕著な低下が認められており、従来株流行期の2.9%(1万778例)からデルタ株流行期では0.4%(1,686例)と2.5ポイント低下、患者数で見ると約9,000例の減少が確認された。
ワクチン接種率上昇が重症化率、全死亡率低下の最も重要な要因
各ウイルス株流行期において年齢層別に全死亡率を比較検討。多変量ロジスティックモデルを用いて従来株流行期、アルファ株流行期、デルタ株流行期における死亡率は、20~49歳がそれぞれ0.07%、0.06%、0.04%、50〜64歳が0.6%、0.6%、0.4%、65〜79歳が4.9%、4.4%、2.8%、80歳以上が16.0%、16.0%、9.7%といずれの年齢層でも低下が認められた。
デルタ株の病原性はアルファ株よりも高いとの報告があるが、今回の研究でデルタ株流行期におけるCOVID-19患者の全死亡率がアルファ株流行期と比べ低下した理由について、宮下氏らは「幾つかの理由が考えられるが、最も重要な要因としてSARS-CoV-2ワクチン接種率の上昇が挙げられる。ワクチン接種人口はアルファ株流行期の中盤から劇的に増加しており、デルタ株に対する重症化や死亡の予防につながったと推察される」と指摘している。
またデルタ株流行期の前に、COVID-19に対する治療薬としてステロイド薬デキサメタゾン、抗炎症薬バリシチニブ、抗ウイルス薬レムデシビルを用いた治療戦略が確立され、デルタ株流行期には抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブが使用可能になったことが大きく寄与した可能性が高いとの見方を示した。年齢層で重症化率や死亡率に違いが生じた背景に関し、同氏は「高齢者に対するSARS-CoV-2ワクチンの優先接種がデルタ株流行期前に開始された。ワクチンを2回目接種した65歳以上の割合は、デルタ株流行期のピーク時には約90%に達した一方で、65歳未満では2回接種者の割合は25%未満にとどまった。ワクチン接種率の違いが高齢者におけるCOVID-19罹患、重症化、全死亡のより顕著な減少をもたらした可能性がある」と考察。
今回の研究では、年齢、性、ウイルス流行株、併存疾患を調整した単変量解析および多変量解析の結果、3つの流行期で重症化・死亡リスクが変動した消化性潰瘍、肝疾患を除き、高齢、男性、悪性腫瘍、認知症、腎疾患、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、その他の慢性肺疾患、片麻痺および転移性固形腫瘍については、いずれの流行期においても一貫して重症化・死亡の危険因子だった。
これらの知見を踏まえ、同氏は「デルタ株流行期のCOVID-19患者は、それ以前のウイルス株の流行期と比べて若年化し、全死亡率が大幅に低下した。中でも65歳以上で低下が顕著だった」と結論。その上で、「いずれの流行期においても、悪性腫瘍、腎疾患、COPDを有する死亡リスクの高い患者群が存在していた」と指摘し、「今回の研究結果から、SARS-CoV-2の突然変異、SARS-CoV-2ワクチンの普及、ウイルス株の流行の移行に伴い、COVID-19患者の特性、重症度や全死亡率、危険因子にも変化が生じたことを示唆している。COVID-19の疫学の理解に加え、行政の施策への活用が期待される」と付言している。
(小沼紀子)