進行悪性黒色腫の治療成績は、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の登場により飛躍的に向上したが、治療抵抗性や再発率の高さなどが課題となっている。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMaartje W. Rohaan氏らは、第Ⅲ相多施設共同非盲検ランダム化比較試験において、進行悪性黒色腫に対する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法が抗CTLA-4抗体イピリムマブと比べ、無増悪生存(PFS)を有意に延長したことを発表した(N Engl J Med 2022; 387: 2113-2125)。イピリムマブ群と比べてTIL療法群では、病勢進行または死亡のリスクが半減したという。

切除不能なⅢC期またはⅣ期の成人悪性黒色腫患者168例が対象

 イピリムマブは進行悪性黒色腫の二次治療における選択肢となっているが、良好な結果が得られる患者は15~30%とされる。一方、TILを用いた養子免疫細胞療法は先行の研究で有望な結果が報告されており、抗PD-1療法で治療中に病勢進行した患者の36%で良好な結果を認めたとの報告もある。そこでRohaan氏らは、進行悪性黒色腫を対象にイピリムマブ群とTIL群のPFSを直接比較する試験を実施した。

 対象は、切除不能なⅢC期またはⅣ期の成人悪性黒色腫患者168例。2014年9月~22年3月にTIL群(84例)またはイピリムマブ群(84例)に1:1でランダムに割り付けた。適格基準はパフォーマンスステータス(PS)が0~1、血清LDH値が正常範囲上限の2倍以下などとした。年齢中央値は59歳(26~77歳)で、男性が60%だった。98%がⅣ期で、89%は全身治療の治療歴があった。また、86%が抗PD-1抗体による治療を受け(一次治療62%、補助療法24%)、病勢進行していた。

 TIL群は、前処置としてシクロホスファミド+フルダラビンによる骨髄非破壊的リンパ球除去化学療法を行い、TILを5×109個以上注入後、高用量インターロイキン(IL)-2を投与した。イピリムマブ群は、3週間ごとに体重1kg当たり3mgを最大4回静脈投与した。

奏効率、全生存ともにTIL群がより良好

 データカットオフ時点(2022年6月9日)の追跡期間中央値は33.0カ月だった。intention-to-treat解析の結果、PFS中央値はTIL群7.2カ月(95%CI 4.2~13.1カ月)、イピリムマブ群3.1カ月(同3~4.3カ月)と、TIL群で有意な延長が認められた〔病勢進行または死亡のハザード比(HR)0.5、95%CI 0.35~0.72、非加重層化Log-rank検定P<0.001〕。6カ月時点でのPFSはTIL群で52.7%(同42.9~64.7%)、イピリムマブ群で21.4%(同14.2~32.2%)と、TIL群で効果の持続が認められた。

 奏効率はTIL群49%(95%CI 38~60%)、イピリムマブ群21%(同13~32%)で、完全奏効率はそれぞれ20%(同12~30%)、7%(同3~15%)だった。全生存(OS)の中央値は、それぞれ25.8カ月(同18.2カ月~未到達)、18.9カ月(同13.8~32.6カ月)だった(死亡のHR 0.83、95%CI 0.54~1.27)。

TIL群は治療関連有害事象が多いが、健康関連QOLは高い

 治療関連有害事象はTIL群では全例に、イピリムマブ群では96%に認められた。TIL群は全例がTIL投与前に行った化学療法に関連したグレード3または4の好中球減少症を示した。毛細血管漏出症候群は、TIL群とIL-2を投与した患者の30%で認められた。グレード3以上の有害事象はTIL群では全例に、イピリムマブ群では57%に認められ、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ15%、27%だった。一方で、TIL群はイピリムマブ群と比べて健康関連QOLの平均スコアが高かった。

 Rohaan氏らは「対象の86%は抗PD-1抗体を投与されており、病勢進行していたが、そのような患者においてもTIL群は49%で奏効、20%で完全奏効が認められた。有害事象の発現率はTIL群の方が高かったが、多くは化学療法やIL-2に関連したものだった。また、TIL群の方が健康関連QOLスコアは高かった」と指摘。その上で、「進行悪性黒色腫において、イピリムマブ群と比べてTIL群ではPFSが延長することが示された」と結論づけている。

小谷明美