デンマーク・Statens Serum InstitutのRohina Noorzae氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染と1型糖尿病発症との関連を調べるため、デンマークの小児111万5,716例を対象とした前向きコホート研究を実施。その結果、小児ではSARS-CoV-2感染によって1型糖尿病の発症リスクは上昇せず、両者に関連は認められなかったと、査読前論文公開サイトmedRxiv(2022年12月5日オンライン版)に報告した。

国立データベースを用いてデンマークの全小児を調査

 18歳未満でSARS-CoV-2に感染した場合、1型糖尿病リスクが高まることが米国やノルウェーにおける複数の研究で報告されており、懸念が高まっている。

 デンマークは、国民1人当たりのSARS-CoV-2検査率が世界で最も高い国の1つである。そこでNoorzae氏らは、同国の国立データベースThe Danish Civil Registration System(CPR)を用いて小児におけるSARS-CoV-2感染と1型糖尿病発症との関連を検討する前向きコホート研究を実施した。

 対象は、CPRから特定した2020年3月1日~22年8月25日にSARS-CoV-2検査を1回以上受けた0~17歳のデンマーク人111万5,716例。検査結果は、RT-PCR検査を受けた全てのデンマーク在住者を含む全国新型コロナウイルス感染症(COVID-19)サーベイランスシステムで確認した。

 対象を、最初に登録されたSARS-CoV-2検査の30日後から、①18歳を迎える、②死亡、③デンマークから移住、④CPR登録で「行方不明者」とされる、⑤1型糖尿病または糖尿病性ケトアシドーシスの初診-のいずれかが発生、または2022年8月25日まで追跡した。研究開始前に1型糖尿病または糖尿病性ケトアシドーシスと診断された児は除外した。1型糖尿病および糖尿病性ケトアシドーシスの診断は、国立患者レジストリ(NPR)の国際疾病分類第10版(ICD-10)コードで特定した。

 1型糖尿病と診断されるハザード比(HR)は、現在の年齢を基礎時間軸とし、性、ベースライン時の併存疾患、SARS-CoV-2ワクチン接種回数、1型糖尿病の診断時期、親の1型糖尿病歴を調整したCox回帰により推定した。

変異株の優勢時期によるサブグループ解析でも差なし

 159万3,937人・年の追跡期間中に613例が1型糖尿病と診断され、10万人・年当たりの発症率は38.5%であった。そのうち、検査陽性者72万648例では、41万9,260人・年の追跡期間中に144例が1型糖尿病と診断された。

 陰性者に対する陽性者における1型糖尿病発症のHRは0.85(95%CI 0.70〜1.04)と、有意差は認められなかった。年齢、性、併存疾患、ワクチン接種回数、1型糖尿病の診断時期、親の1型糖尿病歴にかかわらず、結果は同様であった。

 陰性者に対する陽性者の検査陽性後30日〜6カ月における1型糖尿病発症のHRは0.88(95%CI 0.70〜1.12、102例)、検査陽性後6カ月以上では0.79(同0.57〜1.09、42例)であった。

 糖尿病性ケトアシドーシスと同時に診断された場合とされなかった場合の1型糖尿病発症のHRは、それぞれ0.61(95%CI 0.35〜1.08、17例)、0.89(同0.72〜1.11、127例)であった。

 変異株が優勢な時期で分類したサブグループ解析でも、推定HRに差は認められなかった。

 Noorzae氏らは、米国の医療費請求データベースを用いた研究においてSARS-CoV-2感染により1型糖尿病の発症率が高まったとの報告について、「他の情報源を用いた研究に基づく予想よりはるかに高かったのは、多くの1型糖尿病患者が新規診断例として誤分類されたことで、過大評価された可能性がある」と考察。その上で、先行研究と比較した今回の研究については「SARS-CoV-2変異株の優勢な時期にデータを層別化できたことが強みである。18歳未満のSARS-CoV-2感染とその後の1型糖尿病発症リスクに関連は認められなかった」と結論している。

(今手麻衣)