加齢に伴い、心疾患を含むさまざまな疾患の発症リスクが高まる。これまで老化の程度を推定する複数の手法が開発されているが、診断や経過観察で広く用いられる胸部X線画像による年齢推定についてはあまり検討されていない。理化学研究所生命医科学研究センター循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チームチームリーダーの伊藤薫氏らは、胸部X線画像から患者の年齢を推定する人工知能(AI)モデルを開発。専門医を上回る精度を示すなど、臨床的有用性が示されたとCommun Med (Lond)2022; 2: 159)に発表した(関連記事「胸部X線検査+AIで心不全の診断能向上」)。

NIHの10万枚以上のデータを使用

 老化の程度を推定する指標として、血管の動脈硬化呼吸機能検査の検査値に基づく血管年齢、肺年齢などの「身体年齢」が広く用いられている。近年、機械学習法の1つであるディープニューラルネットワーク(DNN)の進歩に伴い、MRIや心電図などの医療画像から身体年齢の推定を試みる研究が盛んに行われている。

 しかし、心疾患・肺疾患などの診断や経過観察に広く用いられる胸部X線画像を用いて身体年齢を推定する手法や、医師による推定との精度の比較などは十分に検討されていなかった。

 そこで伊藤氏らは、米国立衛生研究所(NIH)の胸部X線画像データベースNIH Chest X-rayデータセットから10万枚以上のデータを抽出。胸部X線の正面画像1枚から患者の身体年齢を推定するAIモデルを開発・検証した。DNNモデルには畳み込みニューラルネットワークモデルSqueeze-and-Excitation Network(SENet)を用いた。

絶対誤差はAI 4.95歳、専門医10.9歳

 日本放射線技術学会が所有する日本人胸部X線画像データ245枚を独立したテストデータとして、AIモデルの精度を検証した。

 その結果、循環器内科医、呼吸器内科医、放射線専門医7人による推定精度は、推定した身体年齢と実年齢の相関係数R=0.698(95%CI 0.627~0.757)、平均絶対誤差10.9歳だった(図1-右)。一方、AIの推定精度はR=0.916(同0.893~0.934)、平均絶対誤差4.95歳と、より精度が高かった(図1―左)。

図1. AIモデルによる年齢推定精度(左)と医師による年齢推定精度(右)

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X線年齢が実年齢より高い患者は、心不全での再入院・死亡率が有意に高い

 次にAIモデルにより推定した身体年齢(X線年齢)の臨床的意義を調べるため、米国NIHデータセットの胸部X線画像を用いて患者の病歴や予後との関連を解析した。その結果、胸水や肺の線維化などの異常所見を有する患者では、X線年齢が実年齢よりも高齢に推定されることが分かった。

 さらに、2011年11月~17年12月に榊原記念病院(東京都)に心不全で入院した患者1,562例のデータを用いて入院時のX線年齢を算出し、X線年齢と患者の併存疾患との関連を検討した。

 その結果、高血圧症心房細動/粗動を持つ患者は、X線年齢がそれぞれ0.87歳、1.22歳高く推定された。年齢、性、腎機能、貧血心不全マーカーなどを調整し、X線年齢と予後との関連について生存時間解析を行ったところ、X線年齢が実年齢よりも高く推定された患者では、心不全による再入院率および死亡率が有意に高かった〔X線年齢1歳上昇ごとのハザード比(HR)1.019、95%CI 1.005~1.032、P=6.69×10-3図2〕。

図2. X線年齢と心不全の予後との関連

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(図1、2とも理化学研究所プレスリリースより)

 以上を踏まえ、伊藤氏は「胸部X線画像1枚から高精度にX線年齢を推定するAIモデルを開発し、X線年齢が併存疾患や心疾患の予後と関連することを明らかにした。一般診療で見逃されやすい異常所見や併存疾患の拾い上げに役立ち、注意喚起できる可能性が示唆された」と結論。「最も頻用されている胸部X線画像の活用法やX線年齢という新たな健康指標の有用性が示されたことで、臨床応用が期待できる」と付言している。

(小野寺尊允)