心身に良い影響があるとされる温泉入浴に、うつ病の発症抑制効果はあるのかー。九州大学病院別府病院内科講師・山崎聡氏らは、高齢者の温泉入浴頻度とうつ病などの既往について調査し、うつ病との関連を検討。結果をComplement Ther Med(2022; 102909)に報告した(関連記事「温泉入浴に疾病予防は期待できるか」)。
別府市在住の高齢者1万人対象
高齢者のうつ病は合併症なども含め深刻な問題の1つになっている。一方、日本人になじみの深い温泉入浴は、心身をリラックスさせる他、硫化水素ガスなどの温熱効果による血管拡張作用が期待されている。
そこで山崎氏らは、2011年に大分県別府市に在住していた65歳以上の高齢者3万4,465人からランダムに2万人を抽出。温泉入浴頻度とうつ病など各種疾患の既往についてのアンケートを実施し、年齢、性、既往、温泉入浴頻度や入浴の時間帯、温泉の種類についての情報が得られた1万429人のデータを解析した。
既往はうつ病が219人(2.1%)、がんが1,194人(11.4%)、虚血性心疾患が743人(7.1%)、不整脈が972人(9.3%)、高血圧が4,089人(39.2%)、脳卒中が363人(3.4%)、痛風が432人(4.1%)、気管支喘息が409人(3.9%)、糖尿病が1,452人(13.9%)、脂質異常症が1,194人(11.4%)、腎疾患が391人(3.7%)、慢性肝炎が228人(2.1%)、膠原病が228人(2.1%)、アレルギーが598人(5.7%)だった。
毎日の温泉入浴でうつ病のオッズ比0.63
多変量ロジスティック回帰分析により、うつ病既往と温泉入浴頻度およびその他の既往との関連を検討した。その結果、女性〔オッズ比(OR)1.560、95%CI 1.170〜2.080、P=0.002〕、不整脈(同1.730、1.180〜2.520、P=0.004)、脂質異常症(同1.630、1.140〜2.320、P=0.006)、腎疾患(同2.260、1.360〜3.750、P=0.001)、膠原病(同2.720、1.480〜5.020、P=0.001)、アレルギー(同1.970、1.270〜3.040、P=0.002)でうつ病との有意な関連が認められた。
一方、毎日の温泉入浴を行っている高齢者ではうつ病のリスクが有意に低かった(OR 0.630、0.418〜0.949、P=0.027)。
以上から、山崎氏らは「高齢者における毎日の温泉入浴習慣は気分障害の改善につながり、うつ病の発症予防と関連していることが示唆された」と結論。ランダム化比較試験によるさらなる検証の必要性を指摘している。
(編集部)