鋭い嗅覚を生かし、がんなどの疾患の有無を嗅ぎ分ける医療探知犬は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の有無を判別できることが報告されている。ドイツ・University of Veterinary Medicine HannoverのNele A. ten Hagen氏らは、SARS-CoV-2のスクリーニング検査における医療探知犬の有用性について、8匹の医療探知犬を対象に2,802例の検体を用いて検討した。その結果、特異度99.9%、感度81.6%と、世界保健機関(WHO)の推進基準を超える診断精度だったことから、「医療探知犬は信頼性の高いSARS-CoV-2のスクリーニングツールになりうる」とBMJ Glob Health2022; 7: e010276)に報告した。

両肘窩の汗検体を用いて判別

 訓練された医療探知犬は、唾液、汗、尿などの体液や、使用済みのマスクなどの検体を基に、SARS-CoV-2の陽性者と陰性者、および他のウイルス感染者を判別できると報告されている。しかし、研究のほとんどは実験室で行われたものであり、臨床で活用できるかは明らかでない。

 そこでten Hagen氏らは、訓練された医療探知犬8匹を対象に2021年9~10月に4回にわたる大規模なスクリーニング検査を実施、SARS-CoV-2判別能を評価した。

 スクリーニングには、18歳以上の計2,802例(男性1,058例、女性1,616例、不明128例:1回目466例、2回目640例、3回目678例、4回目1,018例)の検体を用いた。認定新型コロナウイルス感染症(COVID-19)テストセンターで、参加者にコットンで両肘窩を拭いてもらい汗の検体を採集。スクリーニングは2匹の医療探知犬が行い、2匹とも陽性と判定した場合を陽性、それ以外の場合は陰性とした。また、全参加者にSARS-CoV-2の臨床現場即時検査(point of care testing;POCT)とRT-PCR検査を実施し、年齢、性、ワクチン接種状況、病歴に関する情報を入手した。

 診断感度および特異度は、回ごとに層別化して全参加者で算出した。陽性適中率と陰性適中率は、Dohooらの基準に従い、ドイツにおける典型的アウトカムとして有病率を0.2%と仮定して算出した。医療探知犬による判別能はロジスティック回帰モデルで算出し、RT-PCR検査を標準基準として各回に応じた感度と特異度を決定した。

PCR検査より早期に検知可能か

 解析の結果、2,802例中38例がRT-PCR検査で陽性と判定され、有病率は1.34%であった。87%がワクチン接種済み、5%が未接種で16%が慢性疾患を有し、15%が薬剤の使用を申告した。

 医療探知犬によるSARS-CoV-2陽性の判別能は、感度81.58%(95%CI 66.58~90.78)、特異度99.93%(同99.74~99.99)で、医療探知犬の診断一致率は全体で99.68%だった。各回の精度有意差は認められなかった(P>0.05)。

 陽性適中率は70.02%、陰性適中率は99.96%であった。

 1例については、RT-PCR検査で陽性と判定される2日前に、2匹の医療探知犬が陽性と判別していたことから、医療探知犬はPCR検査で検出可能なウイルスの排出が起こる前に揮発性有機化合物(VOC)プロファイルの変化を検知できる可能性が示唆された。

 偽陽性は医療探知犬による検査で2例、POCT検査で1例だった。

 以上から、医療探知犬はSARS-CoV-2の大規模スクリーニングにおいて、高い判別能を有することが示された。SARS-CoV-2の判別において、有病率の低さやワクチン接種状況、病歴による影響は認められなかった。

 今回の結果について、ten Hagen氏らは「医療探知犬によるスクリーニング検査で達成された感度と特異度は、WHOとドイツ・Paul Ehrlich Institutが推奨するPOCT検査の基準である特異度97%以上、感度80%以上を超えている。SARS-CoV-2のマススクリーニングにおいて、医療探知犬を用いた検査は信頼性の高い手法となりうる」と結論している。

(今手麻衣)