コーヒーを1日に2杯以上飲む重症高血圧(160/100mmHg以上)患者では、心血管疾患(CVD)死リスクが2倍になることが分かった。大阪大学の磯博康氏らは、日本の大規模前向きコホート研究のデータを用いて重症高血圧患者におけるコーヒーと緑茶の影響を検討。結果をJ Am Heart Assoc2022; 11: e026477)に報告した(関連記事「コーヒーの種類を問わずCVDリスクが低下」)。

1万8,000人超を19年間追跡

 コーヒー摂取は一般集団において高血圧の発症および死亡リスクを低下させるが、高血圧患者においては血圧を短期間上昇させる。一方、緑茶の摂取は高血圧前症およびステージ1の高血圧患者の血圧を低下させ、CVD患者および一般集団の全死亡およびCVD死リスクを低下させる。磯氏らは、日本人のがんリスク評価のための多施設共同コホート研究Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk (JACC)に登録された参加者を対象に、コーヒーおよび緑茶の摂取によるCVD死リスクへの影響が高血圧の重症度により異なるかどうかを検討した。

 JACCでは1988~90年に日本の45地域に居住する40~79歳の11万585人(男性4万6,395人、女性6万4,190人)を登録、質問票を用いて人口統計学的情報、病歴、生活習慣、食事などの情報を収集した。

 今回の解析では、ベースライン時に40~79歳で生活習慣、食事、病歴、健康診断の情報が得られた1万8,609人(男性6,574人、女性1万2,035人)を2009年まで追跡。対象を4群①至適・正常血圧〔収縮期血圧(SBP)130mmHg未満かつ拡張期血圧(DBP)85mmHg未満)〕、②正常高値血圧(SBP 130~139mmHgまたはDBP 85~89mmHg)、③グレード1(SBP 140~159mmHgまたはDBP 90~99mmHg)、④グレード2(SBP 160~179mmHgまたはDBP 100~109mmHg)+グレード3(SBP 180mmHg以上またはDBP 110mmHg以上)の高血圧―に分けて追跡した。

 中央値で18.9年間の追跡期間中に、842件のCVD死が発生した。

1日1杯ではCVD死リスク上昇せず

 Cox比例ハザードモデルを用いて年齢、性、緑茶摂取量、高血圧治療薬の使用、総コレステロール値、糖尿病歴、BMI、喫煙歴、飲酒の有無、運動量、歩行量、メンタルストレス、教育レベル、職業、野菜・果物・大豆摂取量などを調整後、血圧レベル別コーヒー摂取量別にCVD死のハザード比(HR)を算出した。

 その結果、コーヒー非摂取群に対するグレード2+グレード3高血圧群のHRはコーヒー1日1杯以下で0.98(95%CI 0.67~1.43)、1杯で0.74(同0.37~1.46)、2杯以上で2.05(同1.17~3.59、傾向のP=0.09)。1日にコーヒー2杯以上で有意なCVD死リスクの上昇が見られたが、1杯ではリスク上昇は見られなかった。コーヒー摂取によるCVD死リスクの有意な上昇は、至適・正常血圧群、正常高値血圧群、グレード1血圧群では認められなかった。

緑茶はCVD死リスクと関連せず

 緑茶摂取については血圧のレベルにかかわらず、CVD死リスクの上昇との関連は認められなかった。

 1日にコーヒーを2杯以上摂取する群は血圧にかかわらず、若年、現喫煙者、現飲酒者が多く、野菜の摂取量が少なく、総コレステロール値が高く、SBPが低かった。

 カフェインを含有するコーヒーにはポリフェノールの1種であるクロロゲン酸やその他のフェノール化合物が含まれており、糖尿病女性のコレステロール値を低下、血管内皮機能を改善、炎症を軽減させる。コーヒー常飲者は、カフェインによるCVDへの悪影響を低減させる可能性があるカフェイン耐性を形成する。一般集団では、カフェインによる一過性の血圧上昇はその他の化合物やカフェイン耐性により相殺される。しかし、高血圧患者はカフェインの効果に対する感受性が強いため、重度の高血圧患者ではカフェインの悪影響が保護作用を上回り死亡リスクを上昇させると考えられる。

 一方、緑茶の有益な効果は、緑茶に最も多く含まれるポリフェノールの(−)-エピガロカテキンガラートによるものと考えられる。(−)-エピガロカテキンガラートは高血圧モデルラットの血圧を低下させ、血管内皮機能を改善させることが示唆されている。(−)-エピガロカテキンガラートは酸化ストレスを低下させ、炎症を低減させ、血清脂質プロファイルを改善させる。緑茶もコーヒーもカフェインを含有しているにもかかわらず、コーヒー摂取のみが重度高血圧患者の死亡リスク上昇に関連していた理由の一部が、これらの緑茶カテキンの有益な効果により説明できる。

 以上から、磯氏らは「コーヒーの多量摂取は重症高血圧患者のCVD死リスク上昇と関連していたが、高血圧でない者やグレード1の高血圧患者ではこの関連は認められなかった。一方、緑茶の摂取は血圧レベルにかかわらずCVD死リスク上昇と関連していなかった」と結論。「重症高血圧患者に対するコーヒーと緑茶の影響を他の国においても明らかにするため、さらなる研究が必要だ」と述べた。

修正履歴(1月5日):対象の収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)を修正しました。

(大江 円)