従来、生殖補助医療(ART)では卵子が入った培養液に精子を滴下して受精を促す体外受精が主流だったが、選別した精子を顕微鏡下で卵子の細胞質内に直接注入する顕微授精が急速に普及している。こうした中、台湾・Kaohsiung Medical University Chung-Ho Memorial HospitalのHuiwen Lo氏らは、顕微授精によって出生した児は、自然妊娠によって出生した児と比べ自閉症スペクトラム障害(ASD)および発達遅滞のリスクが高かったとする後ろ向きコホート研究の結果をJAMA Netw Open(2022; 5: e2248141)に発表した。(関連記事「生殖補助医療の子は小児がんリスクが高い」)

単胎児157万5,971例を解析

 顕微授精は体外受精と比べて受精の成功率が高いと考えられており、現在ARTの主要な選択肢の1つとなっている。しかし、胚のエピジェネティックな変化を引き起こし、出生児の健康に影響を及ぼす可能性が複数の研究で示唆されている。

 そこでLo氏らは今回、台湾の国民健康保険データや出生データ、ARTの登録データを用いた後ろ向きコホート研究を実施し、ARTと出生児の神経発達障害リスクとの関連について検討した。

 解析対象は、2008~16年に出生した単胎児157万5,971例(平均年齢5.87歳、男児52.0%)。このうち自然妊娠による出生児が156万8,257例(99.5%)、ARTによる出生児が7714例〔男性不妊カップルの児2,111例(0.1%)、女性不妊カップルの児5,603例(0.4%)〕。卵子または精子ドナー利用例、着床前診断施行例などは除外した。追跡期間は、出生日から神経発達障害〔ASD、発達遅滞、注意欠陥・多動性障害(ADHD)〕の診断日または2018年12月31日のいずれか早い時点までとした。

顕微授精以外のARTでは神経発達障害リスクとの関連なし

 まず、顕微授精による出生児(3,825例)と顕微授精以外のARTによる出生児(3,889例)の神経発達障害リスクについて検討した。母親および父親の年齢、在胎期間(正期産または早産)、出生児の性を調整して解析した結果、自然妊娠による出生児に対し、顕微授精による出生児ではASDリスクが2.49倍〔調整後ハザード比(aHR)2.49、95%CI 1.61~3.84、P<0.001〕、発達遅滞リスクは1.92倍だった(同1.92、1.54~2.39、P<0.001)。ADHDリスクの有意な上昇は認められなかった。

 一方、顕微授精以外のARTによる出生児では、いずれの神経発達障害とも有意なリスク上昇は認められなかった。

 不妊の原因が父親か母親かを問わず、自然妊娠による出生児に対し顕微授精による出生児ではASDおよび発達遅滞の有意なリスク上昇が認められたが、顕微授精以外のARTによる出生児ではこれらのリスク上昇は認められなかった。

 以上から、Lo氏らは「後ろ向きコホート研究により、自然妊娠と比べて顕微授精は出生児のASDおよび発達遅滞のリスク上昇に関連することが示唆された」と結論。その上で、「ARTにおける受精および妊娠の不成立への懸念から、世界的に顕微授精への支持が広がりつつある。しかし、われわれの検討では顕微授精と出生児の健康リスクの関連が示された。この知見は顕微授精のベネフィットに影響を及ぼす可能性があり、不妊カップルに対する顕微授精の適応を定めることの重要性を示すものだ」と付言している。

岬りり子