HIV感染予防策の1つとして、高リスク者が性行為前に抗HIV薬を服用する曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis;PrEP)が世界的に普及してきている。日本エイズ学会は昨年(2022年)11月、PrEPに関する正確な情報提供を企図し、医療従事者向けに「日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用の手引き」(以下、手引き)を策定した。同年12月13日に行われた医療機関向けセミナーでは、手引きの作成に携わった千葉大学感染症内科准教授の谷口俊文氏がポイントを解説。手引きの積極的な活用を呼びかけた(関連記事:「HIVは『予防』できる時代です」「HIV曝露前予防薬、自己判断の導入が急増」)。

40261_illust.png

WHOのガイドラインで推奨

 PrEPで主に用いられるのは、抗HIV薬エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシル配合剤(TDF/FTC、商品名ツルバダ)またはエムトリシタビン・テノホビル アラフェナミド配合剤(TAF/FTC、デシコビ)である。既に予防効果に関するエビデンスが複数示されており、世界保健機関(WHO)および欧米各国のガイドラインで推奨されているが、日本では両剤ともHIV感染予防目的での薬事承認が得られていない。

 一方、有効性と世界的な普及を背景に、日本ではジェネリック医薬品の個人輸入などによるPrEP使用者が増加傾向にある。未承認薬について手引きが策定されるのは異例だが、一部で不適切使用が見られている現状に鑑み、谷口氏は「PrEPに関する正確な情報を提供し、安全かつ有効性の高いHIVの感染予防を実践する目的で、手引きを策定した」と説明した。

良好なアドヒアランス下でのデイリーPrEPを推奨

 PrEPは、TDF/FTCまたはTAF/FTCを毎日服用するデイリーPrEPと、感染リスクのある性行為ごとに服用するオンデマンドPrEPに分かれる。特に、良好なアドヒアランス下でのデイリーPrEPは男性間性交渉者(Men who have Sex with Men;MSM)、ヘテロセクシュアル、トランスジェンダー女性、注射薬物使用者(People who inject drugs;PWID)への高い予防効果が示されており(TAF/FTCの有効性はシスジェンダー男性とトランスジェンダー女性に限定)、手引きでは「推奨する」とされた。

 では、どのような人がPrEPの適応となるのだろうか。手引きでは、PrEPの使用を希望する成人に対して受診から過去3カ月間と今後3カ月間におけるHIV感染リスクの評価を推奨し、適応としてなどを提示。希望者が、過去3カ月間または今後3カ月間にこのような感染リスクがあると考えられる場合、「PrEPを処方すべきである」とした。他にも、PrEP開始前に必要な評価として、急性HIV感染症の除外、性感染症(STI)検査、腎機能検査、肝炎検査、妊娠検査、脂質代謝検査を挙げた。

表. 性行為によるHIV感染症がある人へのPrEP適応基準

40261_tab01.jpg

〔日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用の手引き〕

 PrEP開始後は、医療従事者による継続的なフォローアップが重要である。手引きでは、「PrEPを開始後1カ月、以降は3カ月ごとにフォローアップを行うべきである」と記載。開始1カ月後にHIV検査および症状や副作用、アドヒアランスについて確認し、その後は少なくとも3カ月置きにHIV検査、STI検査、妊娠検査を行うこととした。 HIV検査が陽性または判定保留となった場合の対応としては、PrEPの速やかな中止と確認検査、専門医への紹介、対象者への精神的サポートを推奨した。

 現在、予防目的での承認が得られていないこともあり、医療機関におけるPrEPの提供およびフォローアップ体制は限定的である。谷口氏は「PrEPの社会実装のためには、TDF/FTCのより安価なジェネリック医薬品の開発・承認が必須である」と指摘。その上で、「各自の経済状況に応じ、性感染症クリニックやかかりつけ医、保健所などを組み合わせて検査を受けられる体制の構築が求められる」と展望した。

(平山茂樹)