常在細菌叢のバランスを整え、健康に良好な影響を与えるプロバイオティクスは、口臭対策にもなりうるのか―。中国・Sichuan UniversityのNengwen Huang氏らは、プロバイオティクスの口臭改善効果をプラセボと比較したランダム化比較試験(RCT)のシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。7件のRCTを分析した結果、プロバイオティクスは短期的には口腔内の揮発性硫黄化合物(VSC)濃度を下げることで口臭改善効果が期待できるが、歯垢や舌苔の抑制などには効果を示さなかったとBMJ Open(2022; 12: e060753に発表した。

口臭改善はVSC濃度の低下が鍵

 口臭の主な原因は、硫化水素やメチルメルカプタン、ジメチルサルファイドといったVSCと考えられている。VSCは、口腔内に生息する嫌気性菌が、唾液や食物残渣中の蛋白質成分などを分解することで発生し、口腔衛生状態の悪化、舌苔の発生、歯周病と関連することが報告されている。そのため、口臭の改善や予防には口腔内細菌叢のバランスを整え、VSC濃度を下げることが鍵だと考えられている。

 近年では、口腔分野で乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスの研究が進んでおり、歯周病、口腔カンジダ症、化学放射線療法に伴う口腔粘膜炎などへの活用の他、口臭の改善効果に関する研究も行われている。Huang氏らは今回、プロバイオティクスの口臭改善効果を検討するため、システマチックレビューおよびメタ解析を実施した。

7件のRCT論文をメタ解析

 2021年2月までに公表された論文のうち、プロバイオティクスとプラセボで口臭改善効果を比較したRCTをPubMedやEMBASEなどの論文データベースから抽出。主要評価項目は口臭官能検査(術者の嗅覚による検査法)スコアおよび測定器を用いたVSC濃度とし、副次評価項目は舌苔の付着度を評価する舌苔スコアおよび歯垢の程度を評価するプラーク指数とした。

 選択基準を満たした7件の論文を対象に、追跡期間が4週間以内または4週超の2つのグループに分けて解析した。対象とした研究には参加人数(23~68例)、年齢(19~70歳)、追跡期間(2~12週間)に幅が見られた。

短期試験では主要評価項目が有意に改善

 分析の結果、追跡期間が4週間以内の短期試験では、口臭官能スコア(SMD -0.58、95%CI -0.87~-0.30、P<0.0001)およびVSC濃度(同-0.26、-0.51~-0.01、P=0.04)はいずれもプラセボ群と比べてプロバイオティクス群で有意に低下した。副次評価項目には両群間で差は見られなかった。

 一方、追跡期間が4週間超の長期試験では、口臭官能検査スコアはプロバイオティクス群で有意に改善したものの(同-0.45、-0.85~-0.04、P=0.03)、VSC濃度や副次評価項目では両群間に有意差は認められなかった。

 メタ解析のファンネルプロットとEgger検定により、出版バイアスは認められなかった。leave-one-out交差検証を用いた感度分析では、個々の研究を除いてもプールされた推定値に有意な変化は見られなかった。

 以上から、Huang氏らは「Lactobacillus salivariusLactobacillus reuteriStreptococcus salivariusWeissella cibariaなどのプロバイオティクスは、短期的にはVSC濃度を低下させることにより口臭改善に有効な可能性がある。しかし、同じく口臭の原因となる歯垢や舌苔などには効果を示さなかった」と結論。「解析対象としたRCTの異質性とサンプルサイズが十分ではなかった点を考慮すれば、今後はより質の高いRCTで口臭対策におけるプロバイオティクスの有効性を検証する必要がある」と付言している。

小谷明美