カナダ・University of OttawaのMaude Lambert氏らは、脳震盪後に症状が遷延し回復が遅れる持続性脳震盪後症候群(persistent postconcussion symptoms;PPCS)と抑うつ症状の関連をコホート研究18件・9,101例のシステマチックレビューとメタ解析で検討。その結果、PPCSが抑うつ症状の発症に有意に関連することが示されたとJAMA Netw Open(2022; 5: e2248453)に発表した。
出版バイアス調整後のオッズ比4.56
脳震盪患者の大部分は受傷後数日~数週間で完全に回復するが、15~30%は頭痛や疲労感、めまい、認知障害、精神症状などが数カ月~数年持続するPPCSを発症する。PPCS患者は抑うつ症状を発症するリスクが高いことが複数の研究で示されているが、これらの関連を定量的に検討したメタ解析はなかった。
今回の解析対象は、Post-Concussion Symptom Inventory、Post-Concussion Symptom Scale、Sport Concussion Assessment Toolなどの評価尺度で脳震盪症状に分類される症状が4週間以上持続している患者における抑うつ症状を定量化し、PPCSという用語が登場した1995~2022年1月にピアレビュー誌に英語で発表された(または英語に翻訳された)研究論文18件の9,101例。対象の平均年齢は33.7歳(標準偏差14.4歳)、脳震盪後の平均経過時間は21.3週間(同18.7週間)だった。
ランダム効果メタ解析の結果、PPCSと抑うつ症状との間に有意な正の関連が認められた〔オッズ比(OR)4.87、95%CI 3.01~7.90、P<0.001〕。
Funnel plotによる評価およびEgger test(z=2.84、P=0.005)で出版バイアスが存在する可能性が示唆されたが、出版バイアスを調整後の解析でも同様の関連が維持されていた(OR 4.56、95%CI 2.82~7.37、P<0.001)。
Lambert氏らは「PPCS患者は抑うつ症状の発症リスクが高く、予後改善のために脳震盪後のメンタルヘルスに対する支援および介入が必要であることが示された」としている。
関連の調整因子は特定されず
一方、研究間の異質性は高かった(I2=95.74%、Q=508.03、P<0.001)。また、解析対象の研究は自己評価尺度を用いたものが多く、ランダム化比較試験が含まれていないため、エビデンスの質は低かった。
さらに、これらの関連の調整因子を解析したところ、地理的因子、抑うつ症状およびPPCSの評価方法、年齢、性、2回以上の脳震盪の発症、精神疾患の既往歴、脳震盪後の経過時間のいずれの因子に関しても有意な調整効果は認められなかった(P=0.87~0.27)。
Lambert氏らは「有意な調整因子が特定できなかったのは解析対象の研究が少数だったことが原因と考えられ、今後データが蓄積されれば特定される可能性もある」と指摘。「調整因子が特定されれば、脳震盪後に精神的転帰が不良となるリスクが高い集団の特定や、高リスク特性の受傷前スクリーニングが可能になり、脳震盪の個別化治療に有用な可能性がある」と述べている。
(太田敦子)