小児期のライフイベントと、後年の高血圧、虚血性心疾患、脳卒中リスク上昇との関連が指摘されている。スウェーデン・Karolinska InstitutetのHua Chen氏らは、デンマークおよびスウェーデンの住民ベースのコホート研究を行い、小児・若年成人期における家族との死別と後年の心房細動(AF)リスクとの関連を検討。結果をBMC Med(2023; 21: 8)に報告した。
約640万人を最長45年追跡
仕事のストレスやライフイベントなどによる精神的因子は、AFリスクの上昇と関連があることが報告されているが、エビデンスとしては不十分である、とChen氏ら。また、小児期のストレスがAFリスクと関連するかについても検討されていないとして、同氏らはデンマークおよびスウェーデンの住民を対象に両者の関連を検討するコホート研究を行った。
対象は、両国の出生登録〔Danish Medical Birth Register(1973〜2018年出生)、Swedish Medical Birth Register(1973〜2014年出生)〕から抽出した出生児のうち、父親に関するデータが不足している者を除外した計639万4,975例。
出生前の父親との死別、出生後の両親または同胞との死別をライフイベントとし、死別時の児の年齢で小児期(24万8,970例、3.9%)と成人期(37万4,910例、5.9%)に分けた。AF初発、死亡、移住、追跡終了(デンマーク:2018年12月31日、スウェーデン:2014年12月31日)のいずれか早い時点まで追跡した。
死別とAFリスクに関連、死因別ではCVD死で最も強い
6.5/105人・年の追跡期間中にAF発症は、8,723例(0.1%)で認められた(発症時平均年齢29歳)。
暦年、登録国、両親の出身、教育歴、精神障害歴などを調整したPoisson回帰モデルにより、親または同胞との死別とAFリスクとの関連を検討した。その結果、非死別群に対する死別群の調整後AF発症率比(aIRR)は、死別が小児期では1.24(95%CI 1.14〜1.35)、成人期では1.24(同1.16〜1.33)と、いずれもAFリスクは高かった。死別相手が親でも同胞でも同様だった(IRR 1.18〜1.25)。
また、死因別にも同様に検討したところ、心血管疾患(CVD)死が最も高く(死別が小児期:aIRR 1.93、95%CI 1.64〜2.28、死別が成人期:同1.52、1.34〜1.74)、次いでその他の自然死(順に同1.17、1.05〜1.32、1.15、1.06〜1.26)、非自然死(順に同1.02、0.87〜1.19、1.24、1.03〜1.48)だった。
以上から、Chen氏らは「小児・若年成人期の親または同胞との死別と後年のAFリスクとの関連を検討したコホート研究により、両者に関連があることが示唆された」と結論。ただし、両者の関連は死別の原因がCVD死で特に強かったことなどから、児における家族性の心血管因子や心血管代謝の危険因子などとの関連が背景にある可能性にも言及。その上で、「対照的に、成人期における非自然死による家族との死別とAFリスクとの関連が示されたことは、死別とAFリスクとの因果関係にはなんらかのストレスが寄与しているのではないか」との見解を示している。
(松浦庸夫)