B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、心不全を含む多様な心疾患において心イベントとの強い関連が知られているものの、心臓サルコイドーシスとの関連性は明らかでない。順天堂大学大学院循環器内科学の宮國翔太氏らは、世界最大規模の心臓サルコイドーシス多施設後ろ向きレジストリILLUMINATE-CSを解析。診断時に心不全を有さない心臓サルコイドーシス患者では、BNP値が将来の死亡、心不全入院、心室性不整脈などの心イベント発生の有用な独立した予測因子であることを明らかにしたとJ Am Heart Assoc2022; 11: e025803)に発表した(関連記事「日本発・世界最大の心サルコイドーシス研究 多施設後ろ向きレジストリILLUMINATE-CS」「難病・心サルコイドーシスの臨床像を解明」)。

国内外とも小規模データしか存在しない

 指定難病の1つであるサルコイドーシスでは、多臓器に原因不明の炎症が生じ肉芽腫が形成される。心臓に発現するものを心臓サルコイドーシスと呼び、命に関わる不整脈心不全、突然死を引き起こすことがある。しかし、比較的まれな疾患であるため国内外ともに小規模なデータしか存在せず、心イベントの予測因子の検討は十分でない。

 BNPは、さまざまな心疾患において有用な心イベントの予測因子であることが分かっている。そこで宮國氏らは、心不全を有さない心臓サルコイドーシス患者でも、BNPが予後予測因子となりうるかを検討した。

BNP中央値で2群に分類

 対象はILLUMINATE-CSに登録された512例のうち、診断時点で心不全が認められなかった心臓サルコイドーシス患者238例(男性37%、平均年齢61.0±11.1歳)。BNPの中央値で101.3pg/mL以上の高BNP群(同33%、64.4±10.3歳)と101.3pg/mL未満の低BNP群(同40%、57.7±10.9歳)に分けた。主要評価項目は全死亡、致死性不整脈(心室細動、持続性心室頻拍、植え込み型除細動器の適正作動)、心不全による入院の複合とし、Kaplan-Meier曲線解析を用いて累積発生率を比較した。

 中央値で3.0年(四分位範囲1.7~5.8年)の追跡期間中に、複合心イベントは61例に発生した(全死亡20例、致死性不整脈42例、心不全入院18例)。

 低BNP群に比べ高BNP群は高齢で、推算糸球体濾過量(eGFR)および左室駆出率(LVEF)が低かった。Kaplan-Meier曲線解析では、BNP値の高さは複合心イベントの発生と有意に関連していることが示された(Log-rank検定、P=0.004、)。多変量解析でもBNPは他の危険因子とは独立した予後予測因子として抽出された(ハザード比2.06、95%CI 1.19~3.55、P=0.010)。

図. BNPと複合心イベントの関連

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(順天堂大学プレスリリースより)

 以上を踏まえ、宮國氏らは「心不全を有さない心臓サルコイドーシス患者では、低BNP群に比べて高BNP群で、全死亡、致死性不整脈心不全入院の複合心イベント発生率が有意に高かった」と結論。「心臓サルコイドーシスの診断時にBNPを測定することで、将来の心イベントを予測できる可能性が示唆された。BNPは日常的に用いられるバイオマーカーであり、日常臨床の一助となる可能性がある。早期に高リスク患者を発見し、治療に結び付けられることが期待される」と付言している。

(小野寺尊允)