腎臓病学の国際的組織KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)は、2020年に初めて作成した慢性腎臓病(CKD)における糖尿病管理のためのガイドラインを昨年(2022年)11月に改訂した(Kidney Int 2022; 102: S1-S127)。米国・Baylor College of MedicineのSankar D. Navaneethan氏らは、2022年版の改訂の概要についてAnn Intern Med(2023年1月10日オンライン版)に発表した。
SGLT2阻害薬:包括的ケアに分類、eGFRの閾値を引き下げ
2022年版では、主に糖尿病とCKD患者の包括的ケアおよび2型糖尿病/CKD患者における血糖降下療法に関する推奨が更新された。
包括的ケアでは腎臓、心血管の転帰改善が示されているSGLT2阻害薬に関する推奨が変更となり、SGLT2阻害薬に関する項目が「血糖降下療法」から「包括的ケア」の章に移動された。
血糖コントロール状態にかかわらず、2型糖尿病やCKD患者の第一選択薬としてSGLT2阻害薬が好ましいとし、その上で個々の患者の血糖目標値を維持するために他の血糖降下療法の併用を推奨している。
SGLT2阻害薬の投与対象となる推算糸球体濾過量(eGFR)の閾値については、2020年版以降に報告されたSGLT2阻害薬の心血管および腎臓への影響を検討した7件の大規模試験の結果を踏まえ、2020年版の「30mL/分/1.73m2以上」から「20mL/分/1.73m2以上」に引き下げられた(推奨1.3.1、グレード1A)。
なお、SGLT2阻害薬の推奨は腎臓および心血管の保護が目的であることから、新たな実践ポイントとして、非2型糖尿病のCKD患者において有用で、既に他の血糖降下薬を使用している場合はSGLT2阻害薬を上乗せできることが追加された(実践ポイント1.3.1)。
非ステロイド性MRA:新たに推奨として追加
包括的ケアにおいては、新たに非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)に関する推奨が設けられた。
2件の大規模な第Ⅲ相試験(FIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験)のエビデンスに基づき、最大耐用量のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬が投与されているにもかかわらず2型糖尿病を発症し、eGFRが25mL/分/1.73m2以上、血清カリウム濃度正常、アルブミン尿(アルブミン/クレアチニン比30mg/g以上)が見られる患者には、腎臓と心血管への有用性が認められているとして非ステロイド性MRAを推奨している(推奨1.4.1、グレード2A)。
GLP-1受容体作動薬:体重減少の有用性を示す実践ポイントを追加
血糖降下療法では、SGLT2阻害薬やメトホルミンで血糖目標値に到達しない、またはこれらの薬剤が使用できない2型糖尿病やCKD患者に対し、2020年版に引き続きGLP-1受容体作動薬を推奨している(推奨4.2.1、グレード1B)。
腎移植前に減量したいなど、一部のCKD患者において体重減少が重視されるケースもあることから、GLP-1受容体作動薬による体重減少の有用性を強調した実践ポイントを追加した(実践ポイント4.2.5)。
腎機能の保持およびウェルビーイングの維持を重視
2022年版では、臨床転帰の改善が認められた生活習慣介入および第一選択薬から治療を開始するアプローチを提唱しており、併用療法の忍容性を最大限に高めるために、腎内血行動態の改善が期待できる薬剤(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド性MRA、利尿薬、その他の降圧薬など)の段階的な導入を推奨している。
Navaneethan氏らは「CKDの進行を抑制し、心不全を含む心血管疾患の負担を軽減する新たな治療方法が登場した現在、腎機能の代替よりも腎機能の保持およびウェルビーイングの維持を重視すべき」と指摘。「糖尿病とCKDを有する患者に包括的なケアを提供するため、リスク評価と患者のエンパワーメントに焦点を当てた、チーム医療による統合ケアの実施を提案するものである」と付言している。
(菅野 守)