前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療に用いられる5α還元酵素阻害薬(5-ARI)がうつ病や自殺に関連するとの報告は多数あるが、これらの多くは交絡因子の影響を排除し切れていない、症例数が限られる、追跡期間が短いなどの限界が指摘されている。そこでスウェーデン・Örebro UniversityのMiguel Garcia-Argibay氏らは、男性223万例を対象とした大規模コホート研究を実施。5-ARI長期使用がうつ病のリスクを高める可能性があるとの結果を JAMA Network Open(2022; 5: e2248135)に発表した。日本では5α還元酵素阻害薬としてフィナステリドが男性型脱毛症、デュタステリドが前立腺肥大症、男性型脱毛症の治療薬として用いられている。
14年追跡し、認知症、うつ病、自殺との関連を検討
Garcia-Argibay氏らは、スウェーデン国民登録データベースの処方データから、2005年7月1日~18年12月31日に同国に在住し50~90歳だった男性223万6,876例を抽出。5-ARIの使用と全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、うつ病、自殺との関連を検討した。
同期間中に、7万645例(3.2%)がフィナステリド、8,582例(0.4%)がデュタステリド、19万8,766例(8.9%)がα遮断薬、12万1,409例(5.4%)は5-ARIとα遮断薬の両方が処方されていた。追跡開始時の年齢中央値は55歳〔四分位範囲(IQR)50~65歳〕、治療開始時の年齢中央値は73歳(同66~80歳)であった。
5-ARI/α遮断薬の非使用例に比べ、5-ARI使用例では高血圧または2型糖尿病と診断される割合、β遮断薬を処方される割合が多かった。また、α遮断薬使用例に比べ、5-ARI使用例では、2型糖尿病、高血圧、肥満、脂質異常症と診断される割合が少なかった。
4年超の使用継続例でうつ病のみ有意に関連、自殺は関連せず
Cox比例ハザード回帰モデルで年齢、β遮断薬の使用、高血圧、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、5-ARIまたはβ遮断薬の使用期間を調整後、各薬剤の使用と各疾患の発症との関連を検討した。その結果、フィナステリド/デュタステリドの非使用例と比べ使用例では、全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、うつ病のリスクが有意に高く、デュタステリド使用例よりフィナステリド使用例で認知症リスクがわずかに高かった。
非使用例に対する調整後ハザード比(αHR)は、全認知症ではフィナステリド使用例1.22(95%CI 1.17~1.28、P<0.001)、デュタステリド使用例1.10(同1.01~1.20、P=0.04)、アルツハイマー病ではそれぞれ1.20(1.10~1.31、P<0.001)、1.28(1.09~1.50、P<0.001)、血管性認知症では1.44(1.30~1.58、P<0.001)、1.31(1.08~1.59、P=0.01)、うつ病では1.61(1.48~1.75、P<0.001)、1.68(1.43~1.96、P<0.001)だった。
一方、自殺のリスクはフィナステリドやデュタステリド使用との関連はなかった。αHRはフィナステリドで1.22(95%CI 0.99~1.49、P=0.06)、デュタステリドで0.98(同0.62~1.54、P=0.93)であった。
さらにGarcia-Argibay氏らは、投与期間の長期化とともに認知症やうつ病のリスクが高まるとの仮説を立てて、検証した。その結果、認知症に関しては5-ARIを4年超使用しなかった例と4年超継続した例で有意差なかった一方、うつ病ではフィナステリド使用例で有意なリスク上昇が認められた〔フィナステリド:HR 1.35(95%CI 1.16~1.56、P<0.001)、デュタステリド:同1.31(0.92~1.86、P=0.14)〕。
以上の知見を踏まえ、5-ARIの使用と全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、うつ病リスクの上昇との関連が示された。ただし、5-ARIの長期使用によるリスク上昇はうつ病のみ認められた。今回の結果から、同氏らは「医師および男性患者は、5-ARIの使用に関連するうつ病リスクの可能性を認識する必要がある」と強調している。
(宇佐美陽子)