九州大学大学院循環器内科学の円山信之氏らは、心不全(HF)による入院患者1万例超を登録した全国規模の多施設共同後ろ向き観察研究Japanese Registry Of Acute Decompensated Heart Failure(JROADHF)のデータを用い、糖尿病合併例に対するDPP-4阻害薬の有効性を検討。その結果、左室駆出率(LVEF)の保たれたHF(HFpEF)に糖尿病を合併する患者において、同薬の非使用群と比べて使用群では心血管疾患(CVD)による死亡またはHFによる入院の複合リスクが有意に低下したとJACC Asia(2023年1月3日オンライン版)に発表した。
追跡3.6年で複合リスクが14%低下
JROADHFでは、2013年に全国158施設でHF入院患者1万3,238例を登録し、中央値で4.3年追跡した。今回の解析対象は、登録者のうち、生存退院した糖尿病合併HF入院患者2,999例(平均年齢73.8歳、男性64.5%、DPP-4阻害薬の使用者41.7%、追跡期間の中央値3.6年)。HFの内訳は、HFpEF(LVEF 50%以上)1,130例、LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF、同40~50%)572例、LVEFが低下した心不全(HFrEF、同40%未満)1,297例だった。
多変量解析の結果、非使用群に対しDPP-4阻害薬使用群では主要評価項目としたCVD死またはHF入院の複合リスクが有意に14%低かった〔ハザード比(HR)0.86、95%CI 0.75~0.98、P=0.026〕。
HFmrEF/HFrEFの糖尿病合併例ではリスク低下せず
HFの分類別に見ると、DPP-4阻害薬による複合リスクの有意な低下はHFpEF患者で認められたが(HR 0.69、95%CI 0.55~0.87、P=0.002)、HFmrEF患者(同0.86、0.62~1.20、P=0.37)およびHFrEF患者(同0.95、0.78~1.15、P=0.60)では認められなかった。
制限付き三次スプライン解析では、LVEFが高い患者ほどDPP-4阻害薬による複合リスクの低下幅が大きいことが示された。
さらに、傾向スコアマッチングを行ったDPP-4阻害薬使用と非使用のHFpEF患者各263例による解析においても、DPP-4阻害薬はCVD死またはHF入院の複合イベント発生率を有意に26%低下させることが示された(100人・年当たり19.2例 vs. 25.9例、発生率比0.74、95%CI 0.57~0.97、P=0.027)。同様に累積発生率曲線の解析でも、DPP-4阻害薬は複合リスクを有意に低下させた(HR 0.77、95%CI 0.59~1.00、P=0.047)。
以上を踏まえ、円山氏らは「DPP-4阻害薬は糖尿病を合併するHFpEF患者の長期転帰を有意に改善した」と結論。そのメカニズムについて、「DPP-4阻害薬は心肥大を抑制することが複数の動物実験で示されており、心肥大はHFpEFの主要な病態である拡張機能不全に密接に関与する。したがって、心肥大の抑制効果がDPP-4阻害薬によるHFpEF患者の転帰改善の一因になっている可能性がある」と考察している。
(太田敦子)