腸内細菌は、肥満糖尿病などの代謝疾患に関与することが知られているが、具体的な菌種や機序などは明らかでない。理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム特別研究員の竹内直志氏らは、肥満・高血糖マウスから単離したFusimonas intestini(FI)が肥満や高血糖の悪化に関与していることを明らかにしたとCell Metab2023年月1月17日オンライン版)に発表した。

トランス脂肪酸や飽和脂肪酸を産生

 ヒトの腸管には40兆個超の腸内細菌が存在し、未消化物の分解、ビタミンや短鎖脂肪酸などの産生を介し健康の維持に寄与している。一方、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)は肥満や高血糖などの代謝疾患をはじめ、さまざまな病態に関わることが知られるが、詳細な機序は分かっていない。

 竹内氏らは、肥満・高血糖マウスから単離されたLachnospiraceae科の細菌で、肥満や高血糖との関連が示唆されているFIに着目(Microbes Environ 2014; 29: 427-430)。肥満糖尿病患者と健常対照各34例の糞便検体を調べたところ、FI保菌率は健常対照の38.2%に比べ肥満・糖尿群患者では70.6%と約2倍だった。さらに保菌者の菌数と空腹時血糖値やBMIに正の相関が示された。

 次にFIの機能を解明すべく、無菌マウスに大腸菌を定着させたノトバイオートマウスを作製。大腸菌のみを定着させたマウスとFIを定着させたマウスに高脂肪色を摂取させる比較実験を行った。その結果、大腸菌単独定着マウスと比べてFI+大腸菌定着マウスでは、体重と内臓脂肪重量が有意に増加(順にP<0.01、P<0.001)、血中コレステロールが上昇した。血糖値が悪化する傾向も示された。これらの変化は通常食投与下では見られなかったことから、FIは食事由来の脂肪に反応して代謝物を産生し、肥満の病態を悪化させると推測された。

 そこで、両マウスの糞便に含まれる代謝物のメタボローム解析を行い、水溶性代謝物(アミノ酸、糖など)、脂質代謝物(脂肪酸)の濃度を比較した結果、水溶性代謝物は食事内容を問わず、両マウスで近似した一定のパターンが観察された。それに対し、高脂肪食摂取時のみ、FI+大腸菌定着マウスで主要な食事由来トランス脂肪酸のエライジン酸、飽和脂肪酸のパルミチン酸の糞便中濃度が有意に上昇した(P<0.001、)。FIを脂肪酸含有培地で培養したところエライジン酸の増加が認められ、FIが高脂質の環境下で健康に悪影響を及ぼす脂肪酸を産生することが明らかになった。

図. FIによる糞便中脂肪酸濃度の上昇

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(理化学研究所プレスリリースより)

腸管バリア機能の低下を介して肥満・高血糖が悪化

 竹内氏らは、腸内細菌による過剰な脂肪酸合成が肥満・高血糖につながるかを検証するため、大腸菌にfadR遺伝子を過剰発現させ、エライジン酸などの脂肪酸を大量に産生する細菌株を作製した。この細菌株を無菌マウスに定着させて高脂肪食を与えたところ、通常の大腸菌定着マウスと比べて肥満や血糖値が悪化した。このことから、細菌由来の脂肪酸合成は直接的に肥満・高血糖を悪化させる原因となりうることが明らかになった。

 最後に、これらの脂肪酸が肥満・高血糖を悪化させる機序を明らかにすべく、FI+大腸菌定着マウスの血中脂肪酸濃度を測定したが、ほぼ上昇は認められなかった。ただし、実験結果と腸内細菌が肥満・高血糖を悪化させる機序の1つ「腸管バリア機能の破綻とそれに伴う細菌由来エンドトキシンの体内移行」という仮説を併せて考えると、脂肪酸が腸管に影響を及ぼすことで間接的に肥満・高血糖を悪化させる可能性が考えられた。

 そこでタイトジャンクションにおける遺伝子発現を調べたところ、大腸菌単独定着マウスと比べFI+大腸菌定着マウスでは発現低下が認められた。また、腸管上皮細胞を培養し、FI+大腸菌定着マウス由来の糞便脂質抽出物やエライジン酸を添加したところ、タイトジャンクションの遺伝子発現が低下した。さらにエライジン酸を肥満マウスに投与したところ、腸管バリア機能の低下、肥満や血糖値の悪化が認められた。これらの結果から、FIが産生するエライジン酸は腸管バリア機能に影響を与え、肥満や高血糖を悪化させることが明らかになった。

 以上を踏まえ、同氏らは「FIはトランス脂肪酸などの代謝物を過剰に産生することで、肥満や高血糖の悪化に関与することを明らかにした。腸内細菌および代謝物を標的とした肥満糖尿病の治療につながることが期待される」と結論している。

(小野寺尊允)

脂肪酸合成における転写因子として下流の遺伝子発現を制御するマスターレギュレーター遺伝子